家族や友人に何も知らせず完全に「蒸発」してしまう人が年に数千人いる。なぜ彼らは姿を消し、どこで何をしているのか。過去の人間関係を断ち切って生きている人々を追ったドキュメンタリー映画『蒸発 JOHATSU』(3月14日から日本公開)を見たノンフィクション作家の北尾トロさんは「リアルな描写から厳しい現実だけではなく、人生をリセットしたことで得られるかすかな希望も感じられた」という――。
「人が消える」は絵空事ではない
日本では、年間に約8万人以上が失踪し、多くはやがて帰宅するが、数千人はそのまま行方知れずとなってしまう(※)。なぜ彼らは姿を消すのか。どこで何をし、何を思っているのか。その実像に迫るドキュメンタリー映画『蒸発 JOHATSU』が間もなく公開される。
たくさんの人が姿を消していても、事件と結びつかないかぎり報道されることはあまりないため、ピンとこない数字かもしれない。
(※)2022年の行方不明者は8万4910人で、同年中に所在確認などがなされたのが8万653人。2023年は同9万144人で、同8万8470人(出典=警察庁)
でも、たとえば“夜逃げ屋”というビジネスがあることを我々はなんとなく知っている。この言葉が普及したのは、1991年に中村雅俊主演で公開された映画『夜逃げ屋本舗』のヒットがきっかけだった。テレビシリーズ化されて人気を博したことを覚えている人もいるだろう。借金の取り立てやDV被害から逃れるため、あるいは当人にしかわからない理由で依頼を受けた夜逃げ屋が、さまざまなテクニックを使いながら合法的に人や荷物を守っていくエンタメ作品だ。
同作に取材協力し、夜逃げ(訳あり引っ越し)ビジネスの元祖として注目された羽鳥翔氏は、『ザ・夜逃げ屋 逃げるなら俺にまかせろ!』(1997年)で作家デビューも果たしている。また、小説作品では、2009年から堂場瞬一氏の『警視庁失踪課・高城賢吾』シリーズが刊行開始。架空の部署を題材にした警察小説でありながら全10巻の人気シリーズになったのは、“人が消える”ことがあながち絵空事とは言えないことを読者が知っていたからだと思う。
そう、人は煙のように、ある日突然いなくなることがあるのだ。身近な人さえその兆候を感じ取れないままに――。




