巨人・阿部慎之助前監督が18歳の長女への暴行容疑で逮捕されるという衝撃な事件が起こった。東北大学特任教授で人事・経営コンサルタントの増沢隆太さんは「今の時代、親による身体的な叱責も社会的には許容されなくなった。今回の阿部氏の辞任騒動は、その価値観の変化を象徴する出来事だった」という――。
プロ野球・読売ジャイアンツ阿部慎之助前監督が辞任会見(2026年5月26日)
写真提供=共同通信社
プロ野球・読売ジャイアンツ阿部慎之助前監督が辞任会見(2026年5月26日)

「親子ゲンカ」から一夜で監督辞任へ

夜7時のプライムタイム。テレビの臨時ニュースで「巨人軍監督・阿部慎之助氏、暴行で逮捕」という衝撃的な文言が飛び込んできました。当初、少ない情報は臆測を呼ぶも、巨人・阿部慎之助前監督(以下、阿部氏)自身が翌日早々に謝罪会見を開き、同時に長女から父親をかばう経緯説明の手紙も披露されました。

徐々に詳細が伝わるにつれ、これが凶悪な事件などではなく、わずかなボタンの掛け違いの重なりによる巨大なインパクトに至る、「バタフライエフェクト」のような展開も見えてきたのです。

その日、阿部家で起きたのは、ささいな親子ゲンカのようないさかいだったと、長女は説明しています。普段は父娘間でも「ダジャレを読みあい笑い合う仲」であり、今はもう「仲直り」しているという表現からも、深刻なDVや児童虐待というよりは、「親子ゲンカ」の範疇であることを想像させます。

そもそも年頃の娘さんと父親が親しく接すること自体が一般的であるかは一概に判断できませんが、むしろ一般家庭以上に良好な親子関係を築いていることを感じさせる手紙でした。

その手紙の中で明かされた、事件当夜の真相はこうです。発端は、きょうだいゲンカを叱る父親の態度について、長女が相談を試みたことでした。彼女がその相談先として選んだのは、友人や親戚ではなく「チャットGPT」だったのです。

そしてAIに勧められるがままに児童相談センター(以下、児相)への連絡を入れたことで、事態は大きく動きます。

「そんなつもりは…」で起こるコンプラ違反

平日の日中であれば児相にもカウンセラーなど専門家がいて、もしかしたらその場での話し合いや相談だけで収束した可能性もあります。児童相談所で保護できるのは原則18歳未満の児童です。18歳だった長女は保護対象外となり、強制的に介入できないため、警察への通報に至ったのではないかと推測します。警察にバトンが渡ったことで、緊急性からも逮捕まで至ったと考えられます。一つひとつの事象の歯車は大きなものではなかったかもしれませんが、それが不幸の連鎖をしてしまったと言えるでしょう。

こうして、阿部氏はわずか一晩で、プロ野球セ・パ交流戦の開幕を翌日に控えた巨人軍監督を辞任するまでに追い込まれたのです。

巨人生え抜きの名選手を経て、監督にまで上り詰めた阿部氏だけに、その辞任を惜しむ声は少なくありません。そしてこの一夜にしての急転直下の展開には、理解も心情もついていけないという声も聞こえます。阿部氏の監督としての資質や素養ではなく、この事件の本質はこの「感覚のズレ」にあることを説明したいと思います。筆者は普段、コンプライアンスの指導でさまざまな企業や官公庁を訪れています。実はコンプラ違反やハラスメント問題で一番多いのは悪意による行為ではなく、この「感覚のズレ」であり、「そんなつもりではなかった」という、行為者の行動基準に原因があります。