「ポテトチップスの袋が白黒になる」。そんな異変が、いま日本の産業界で広がり始めている。背景にあるのは、中東情勢の悪化による「ナフサ危機」だ。しかし高市政権は、「必要量は確保できている」と強調し続ける。現場では原材料不足や価格高騰への不安が強まり、幹部官僚からは「官邸は責任を取りたくないだけだ」という声まで漏れ始めた。ジャーナリストの城本勝さんがリポートする――。
報道陣の取材に応じる高市首相=2026年05月25日午後、首相官邸
写真提供=共同通信社
報道陣の取材に応じる高市首相=2026年05月25日午後、首相官邸

政権を蝕む「ナフサ危機」

「ナフサ」という言葉を初めて聞いたのは、40年近く前、駆け出しの政治記者として自民党の税調に所属する中堅議員を取材していた時だった。ナフサとは原油から精製される粗製ガソリンのことだが、これも初めて聞いた「租特そとく」の解説を聞いているなかでナフサ免税という言葉が出てきたのである。

租特=租税特別措置は産業界に対する自民党の最強の武器だ。特定の業種への減税を決めることから、実質的な補助金であり、自民党が業界に強い影響力を行使する「力」の源泉でもある。特に大きいのがナフサ免税と呼ばれる揮発油税などのナフサ関連の租特だ。

ナフサを原料とする製品は、プラスチック製の各種容器、食品包装、洗剤、自動車部品、断熱材などの住宅資材、太陽光発電など多種多様で、関連する中小企業は2万社、出荷高は30兆円にものぼると言われている。

2024年度の減税額は3.2兆円(推計値)と全体で9.5兆円といわれる租特の減税額の3分の1を占める。

ナフサは、いわば日本の産業全体を支える生命線でもあるのだ。そのナフサが途絶えることがあれば、影響は計り知れない。

政権の行方を左右しかねない「政治銘柄」

「ナフサは特別だ。戦後の日本経済の復興を支えてきた。安いナフサを使えるから電気製品でも自動車でも競争力ができた。大蔵省は、何度も減税額を減らそうと画策してきたが、そんなことをすれば自民党はつぶれると押し返してきた」

旧大蔵省出身で後に党税調の重鎮となるその議員は、その後も折に触れてナフサの重要性を語った。社会保障などの財源を捻出するためにナフサ免税を縮小するというのは、財政当局が度々提起していた。

また化石燃料の消費を減らすという環境保護の観点もあって、かつての民主党政権でも検討されたが、産業界だけでなく関連企業の労働組合からも激しい反発が出て立ち消えになっていた。

こうしたこともあって、もともと政界関係者の間では、ナフサは政権の行方を左右しかねない「政治銘柄」だというのが通説になっていたのである。

「足りている」神経質になる官邸

「原油もナフサも必要な量は調達できる見通しが立った。ナフサは中東以外からの代替調達で従来の8割まで回復、サプライチェーンの各層に1.8カ月分相当の中間在庫もあるためナフサ由来の石油製品は年を超えて供給継続が可能だ」

25日、中東情勢による物価高騰に対処する補正予算の編成を決めたことを受けて、首相官邸で記者団を前に説明した高市首相は、「ナフサは足りている」と繰り返し強調した。