高齢親の免許返納をどう考えればいいのか。佐賀大学特任教授の堀川悦夫氏は「長年の運転で身についた“癖”は、加齢による心身の変化とともに事故の原因へ変わることがある。運転寿命を左右するのは年齢ではなく、自分の運転を見直せるかどうかだ」という――。

※本稿は、堀川悦夫・楠田悦子『免許返納を10年延ばす70歳からの運転学』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

車の運転中に想定外のことが起き、驚いているシニア男性
写真=iStock.com/Jelena Stanojkovic
※写真はイメージです

運転寿命は、「今の癖」で決まる

「私は何十年も無事故で運転してきた」と語る高齢ドライバーは少なくありません。もちろん、その経験は大きな財産ですが、“長年の慣れ”が危険につながることもあります。

静岡県の富士スピードウェイ内にある、トヨタ自動車運営の交通安全講習施設「モビリタ」では、一般ドライバー向けにさまざまな運転講習を行っています。

レーシングドライバーの育成を行うトムススピリットから出向し、同施設でインストラクターとして活動している佐藤直人氏と大塚哲史氏は、日々、多くの高齢ドライバーを指導するなかで、ある共通点に気づいたと言います。その代表例として、佐藤氏が指摘するのが、「“自分は大丈夫”と思っているケース」です。

実際、講習ではシート位置が極端に後ろになっている人や、ハンドルの握り方が悪い人などがいるそうです。本人にとっては“いつもの運転姿勢”ですが、ブレーキを踏み込む力が弱くなったり、とっさの踏み替えや危険回避が遅れたりする原因になります。

加齢による変化に対応していくために

特に多いのが、「楽な姿勢」に流れてしまうケース。身体をシートに深く沈め、足を前へ投げ出すような姿勢では、急ブレーキ時に十分な踏力をかけづらくなります。

前方をよく見ようとして顔をハンドルに近づけすぎる人もいますが、その姿勢では腕に余裕がなくなり、とっさの回避操作がしにくくなります。

ハンドルを抱え込むように握ることで、急な切り返しが遅れたり、視線が近くばかりに向いてしまったりするケースもあります。

長年運転を続けていると、そうした姿勢や操作が“自分にとっての普通”になっていきます。若い頃には問題にならなかったその癖も、加齢によって身体能力や認知機能が少しずつ変化していくなかで、事故に直結する要因へと変わっていきます。

加齢による変化は、突然起こるわけではありません。特に本連載でも触れた視野幅や判断速度などは、少しずつ悪化するため、自分では変化に気づきにくいものです。

だからこそ「今の癖」を認識し、正していくことが、免許返納を延ばす最大のポイントになります。