※本稿は、加藤和則『血管細胞を強くすれば熱中症は予防できる 熱中症やヒートショックに強い身体に変える3つの成分』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
汗をかかなくても、水は失われている
熱中症対策として最もよく知られているのが水分補給です。ただ、「実際にどれだけ失われているのか」を正しく見積もっている人は、それほど多くありません。
運動をせず、汗をほとんどかいていない日でも、人間の身体からは1日にペットボトル4本分(2リットル)の水分が失われています。その多くは、尿や汗から失われますが、意外な経路の一つが「吐く息」です。
眼鏡のレンズに息を吹きかけると、白く曇ります。あれは呼気にかなりの量の水分が含まれている証拠です。私たちは一日中、気づかないうちに息とともに水を捨て続けているのです。
しかも、この損失量は呼吸の仕方によって変わります。緊張していたり、リラックスできていなかったりすると、呼吸数が増え、呼吸そのものも浅くなります。すると、呼気から出ていく水分は増えていきます。逆に、できるだけゆっくりと深い呼吸をするほうが、水分の損失は少なくなるのです。
鼻は「水分の回収装置」である
ここで重要になるのが、「鼻呼吸」と「口呼吸」の違いです。
鼻の内部、鼻腔は非常に複雑な形をしています。この構造には、通過する空気を適度に加湿し、加温する機能があります。乾いた冷たい空気がそのまま肺に届かないよう、鼻が下ごしらえをしてくれているわけです。
注目すべきは、その先です。加湿された空気が肺に入り、呼気として戻ってくるとき、鼻腔の壁面が水蒸気の一部を吸収し、回収してくれます。つまり、鼻で呼吸している限り、吐いた分の水分がある程度「戻ってくる」しくみが働いているのです。
ところが口呼吸では、この回収機能が使えません。吸う空気の加湿も鼻ほど精巧ではなく、呼気に含まれた水分はほぼそのまま外へ出ていってしまいます。
スポーツ選手が口を大きく開けて激しく呼吸しているとき、水分の消費量が急激に増えるのはこのためです。
犬が夏に舌を出す理由
この違いをわかりやすく示してくれるのが、犬です。
犬は全身を濃い体毛に覆われているうえ、人間と違って汗腺が少なく、汗をかきにくい動物です。そのため、口の中の唾液を気化させることで体温調節を行っています。これをパンティングといい、夏の暑い日に、口を開けて舌を出し、荒い息づかいをしているのはそのためです。
ただし、この方法には代償があります。呼気から水分が抜けやすくなるので、体温を下げようとするほど脱水も進んでしまうのです。口で呼吸して身体を冷やすという行為が、そのまま水分の持ち出しになる。これは、人間の口呼吸にもそのまま当てはまる話です。

