腹式呼吸は水を節約する

さらに、呼吸筋――とくに横隔膜の使い方も、水分の損失と無縁ではありません。

横隔膜を主役とした「腹式呼吸」では、肺全体が効率よく膨らみ、1回の換気量が大きくなります。1回で多くの空気を出し入れできれば、同じ量の酸素を取り込むために必要な呼吸の回数は減ります。呼吸の回数が減れば、そのぶん呼気から逃げる水分も減り、唾液からの気化も抑えられます。

深く、ゆっくり、鼻で呼吸する。日々の呼吸を整えることは、特別な道具も費用もかからない、最もシンプルな熱中症予防の一つなのです。

「隠れ脱水」という一歩手前の状態

こうして少しずつ水分が失われていった先にあるのが、「隠れ脱水」と呼ばれる状態です。

隠れ脱水とは、自分では感じていないけれど、一線を少し越えたら脱水になってしまうという、脱水の一歩手前の状態を指します。のどの渇きも自覚しておらず、体調に大きな異変も感じていない。それなのに、実は身体の水分バランスはすでに危険域に近づいている――そういった状態が「隠れ脱水」です。

自覚がないというのが、この状態のいちばん厄介なところです。「のどが渇いていないから大丈夫」という判断が、そのまま通用しません。

そうめんばかりの夏が危ない

興味深いことに、隠れ脱水になりがちな人の食生活には、ある共通した特徴が見られました。夏場はそうめんばかり食べている、ということです。

そうめんは、つるっとしたのど越しもよく、冷たくておいしく食べられる、夏場には最適の食材です。しかし、栄養の構成を見てみると、そうめん自体は小麦の炭水化物とタンパク質が中心であり、つゆは塩分が主成分です。それ以外の栄養素があまり含まれていません。

そのため、こうした食事が続くと血液の浸透圧のバランスが偏り、血液が濃くドロドロになる状態を招きやすくなってしまいます。暑さで水分が失われているところに、栄養の偏りが重なるわけです。

めんつゆに、シークワーサーを一絞り

では、そうめんをやめるべきかというと、そういう話ではありません。日常的に食べているものに少し工夫を加えるほうが、はるかに現実的です。

例えば、夏場のそうめんのつゆに、シークワーサーをぎゅっと絞ってみてください。それだけでビタミンも取れますし、私たちが熱中症研究の中で見つけた有効成分の一つであるタンゲレチンも、ある程度は摂取できます。オーラプテンも、ユズの皮やカボスの皮をすりおろして加えることで、わずかですが取ることができます。柑橘の香りを楽しむことができて、そうめんそのものがよりおいしくなるという利点もあります。

シークワーサーを絞っている手元
写真=iStock.com/4kodiak
※写真はイメージです

めんつゆに中鎖脂肪酸のオイル(MCTオイル)を1滴か2滴落とす、という方法もあります。

もちろん、それだけでは成分の必要量には全然届きません。それでも、日常的に毎日食べるようなものに少し工夫を加えることで、少しずつ身体の中に有効成分を取り込んでいくのは、よい方法だと思います。