※本稿は、橘玲『プアジャパン』(プレジデント社)の「第1章〈近未来小説〉日本人を待っていた浅い眠り2026年版」を再掲したものです。
元ニートの億万長者
新宿駅の南口を出ると、新しくつくられた超高層ビルの最上階にある個人投資家の事務所に向かった。数少ない日本人顧客の一人で、「ドリーマー」の名でSNSのインフルエンサーとして知られる30代前半の若者だ。
大学を中退してFXとパチスロで生活していたドリーマーは、円が下落する過程で、レバレッジをかけた巨額の円買いドル売りのポジションをつくり、莫大な利益を得た。AIはさらなる円安を予測しており、それに逆らって逆張りで成功したことで、「神」と呼ばれるようになった。
ドリーマーはその資金を元手に不動産投資をはじめ、いまでは渋谷や青山に数棟のビルを所有している。
インフレと不況が同時に起きることをスタグフレーションというが、その結果、この10年で日本の富裕層はほぼ全面的に入れ替わってしまった。
大手銀行員の末路
ホテルのロビーのような豪華なリビングで、円安のため超高級品になったハワイコナのコーヒーを飲んでいると、大手銀行の支店長が額の汗を拭きながらサイバールームから出てきた。
実質国有化されたその銀行は公務員並みの給与しか支給することが許されず、有能な人材はすべて外資系に移っていった。
残ったのは英語も話せず、金融の専門知識もない中高年ばかりで、彼らにできることといえば、かつてはゴミかムシケラのようにしか思っていなかったニートの若者のもとに日参し、融資させてほしいと懇願するくらいだ。


