※本稿は、堀川悦夫・楠田悦子『免許返納を10年延ばす70歳からの運転学』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
「ワシは免許返納したくないのじゃ」
高齢ドライバーの方と話をしていると、「運転はできれば続けたい」、「やめるのは不安だ」という声が少なくありません。
その背景には、単なる移動手段の確保にとどまらない、より深い意味があることが見えてきます。
実際、医療現場でも、「運転が好き」や「気晴らしになる」、「一人の時間を持てる」、「長年運転してきて問題はなかった」といった声が聞かれます。
「家族に頼るのは気を使う」、「バスもタクシーも不便」といった現実的な事情に加え、「自由に動ける」という感覚そのものが、その人の暮らしや自立心を支えているケースも多く見られます。
どこへでも行けるという万能感は、個人の自由意志の証明であり、家族を乗せて車を走らせた経験を持つ世代にとって運転席は、家族に対する「責任と権威」の象徴であることも少なくありません。
心理学的に見ても、運転は単なる技能ではなく、自分で判断し、操作し、目的地にたどり着くという一連のプロセスを通して「自分はまだできる」という自己効力感を支える行為です。
長年ハンドルを握ってきた人にとって、車は移動の道具というよりも、身体の延長のような存在であり、運転をやめることは「自分の一部を手放す」ように感じられることさえあります。


