舘ひろし主演の映画『免許返納⁉』が話題になっている。運転好きの古希を迎えた主人公が仕事の関係で免許返納を迫られるコメディだ。佐賀大学ライフロングモビリティ研究・支援講座の堀川悦夫特任教授は「運転をやめることは、『自分の一部を失うこと』と感じる高齢者も少なくない。免許を返納する前にできることがある」という――。

※本稿は、堀川悦夫・楠田悦子『免許返納を10年延ばす70歳からの運転学』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

クルマが大好きな主人公の俳優役南条弘(舘ひろし)は仕事の関係で免許返納をしなくてはならなくなった。
配給=東映©2026「免許返納⁉」制作委員会
クルマが大好きな主人公の俳優役南条弘(舘ひろし)は仕事の関係で免許返納をしなくてはならなくなった。

「ワシは免許返納したくないのじゃ」

高齢ドライバーの方と話をしていると、「運転はできれば続けたい」、「やめるのは不安だ」という声が少なくありません。

その背景には、単なる移動手段の確保にとどまらない、より深い意味があることが見えてきます。

【図表】もの忘れ外来での問診や面接で聞かれた意見
出典=『免許返納を10年延ばす70歳からの運転学』(プレジデント社)

実際、医療現場でも、「運転が好き」や「気晴らしになる」、「一人の時間を持てる」、「長年運転してきて問題はなかった」といった声が聞かれます。

「家族に頼るのは気を使う」、「バスもタクシーも不便」といった現実的な事情に加え、「自由に動ける」という感覚そのものが、その人の暮らしや自立心を支えているケースも多く見られます。

どこへでも行けるという万能感は、個人の自由意志の証明であり、家族を乗せて車を走らせた経験を持つ世代にとって運転席は、家族に対する「責任と権威」の象徴であることも少なくありません。

心理学的に見ても、運転は単なる技能ではなく、自分で判断し、操作し、目的地にたどり着くという一連のプロセスを通して「自分はまだできる」という自己効力感を支える行為です。

長年ハンドルを握ってきた人にとって、車は移動の道具というよりも、身体の延長のような存在であり、運転をやめることは「自分の一部を手放す」ように感じられることさえあります。