※本稿は、加藤和則『血管細胞を強くすれば熱中症は予防できる 熱中症やヒートショックに強い身体に変える3つの成分』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
「首と脇の下を冷やせ」の常識には続きがある
熱中症の応急処置として「首すじや脇の下、脚の付け根を冷やす」という方法は広く知られています。太い血管が体表の近くを通っている場所を冷やせば、冷やされた血液が全身を巡って体温が下がる――という考え方です。
この方法自体は間違いではありません。ただ、実はそれよりも科学的に優れた冷却法があります。それが「手のひら冷却」です。
あまり知られていませんが、人間の手のひらは非常に重要な体温調節機能を担っています。そのメカニズムを理解しておくことで、いざというときに、より効果的な対応ができるようになります。
手のひらに埋め込まれた「熱交換器」の機能
手のひらが体温調節に大きな役割を果たす理由は、「AVA(動静脈吻合)」と呼ばれる特殊な血管構造にあります。動脈と静脈を直接つなぐバイパス血管のことです。
通常、動脈から送り出された血液は、細い毛細血管の網の目をくぐり抜け、酸素や栄養を組織に渡したうえで静脈へ戻っていきます。ところがAVAは、その毛細血管の区間をまるごと飛ばし、動脈と静脈をショートカットでつないでいます。
毛細血管を通らないということは、酸素や栄養、老廃物の受け渡しには関与できないということでもあります。つまりAVAが運べるものは、事実上「熱」だけです。体温を逃がすことに特化した血管だといってよいでしょう。
体温調節機能の司令塔がAVA
AVAは、指先から指の腹(第1関節あたりまで)、手のひら、母指球(親指の付け根の盛り上がったところ)、小指球(小指の付け根)に分布しています。血管そのものは短く、内径が太く、筋肉の壁が分厚いのが特徴で、交感神経の枝が密に取り付いています。開いたり閉じたりするシャッターのような構造をしているのです。
その密度は非常に高く、爪の下では1平方センチメートルあたり600個ほど、母指球や小指球のあたりでも100個ほどが存在すると報告されています。多くの血管が張り巡らされた手のひらの構造が、効率的な熱交換器として機能しているわけです。
AVAが開くと、熱を帯びた血液が大量に手のひらを通過し、皮膚の表面から熱を放散します。逆に寒いときには閉じて、熱を身体の中心に閉じ込めます。この開閉は、脳の視床下部にある体温調節の中枢からの指令によって、全身のAVAが一斉に行っていると考えられています。

