車は進化しても、人間は衰える
近年の車には、自動ブレーキや車線維持支援機能など、多くの安全装備が搭載されています。しかし大塚氏は「機能を正しく理解できていない人も多い」と指摘します。
たとえば、運転支援機能が付いたことで、“車が守ってくれる”という意識が強くなり、かえって注意力が落ちてしまうケースもあります。
佐藤氏も「車が便利になるほど、人が本来持っていた運転能力を使わなくなる面もある」と言います。
もちろん安全技術は重要です。しかし、それを過信すれば、“最後は人が判断する”という大前提を忘れてしまいます。安全装備が進化しても、現時点で運転するのは人間だという事実は変わりません。
一方で、運転支援機能や安全装備を毛嫌いし、まったく活用しないというのも間違った考え方。大事なのは、正しく理解し、賢く活用していくこと。
代表例として大塚氏が挙げるのが、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)です。同システムに対して、昔の性能のイメージのまま「ABSは怖い」と、ABSが作動しないブレーキをしてしまう高齢ドライバーも少なくないそうです。
「安全装備は年々進化しているので、その仕組みや役割を理解し、正しく活用することで防げる事故は多くなる」と大塚氏。もちろんその前提には、性能が向上したクルマへの乗り換えも必要になります。
間違えたときの“修正力”が大事
佐藤氏は講習で、「人は誰でも間違える」と繰り返し伝えています。問題なのは、“間違えないこと”ではなく、間違えたときに、修正できるかどうかであるのだと言います。
たとえば、アクセルとブレーキの踏み間違いは若い人でも起こります。しかし、高齢になると、その後の対応が遅れやすいため、大事故につながりやすいのではないかと佐藤氏は指摘します。
加えて、冒頭で述べた運転の癖でシート位置が後ろすぎると、事故率は増します。仮にそれが左折中であれば、身体が右へ流れるため、アクセルとブレーキの踏み替えがさらに難しくなります。本人にとっては小さな癖かもしれませんが、それが重大事故の引き金になることがあるのです。
運転寿命を延ばす、すなわち「免許返納を遅らせる」とは、“いつまでも昔と同じように運転すること”ではありません。年齢による変化を受け入れ、その変化に合わせて運転をアップデートすることです。その第一歩は、「自分は大丈夫」という思い込みを捨てることでしょう。
見直すべきは、特別なテクニックではなく、右左折の方法、車線変更時の視線、一時停止のタイミングといった、毎日の運転のなかで無意識に繰り返している“癖”です。それらこそが将来の事故リスクを左右するからです。
では実際に、高齢ドライバーはどのような場面で事故を起こしやすいのでしょうか。ここからは、事故データをもとに、場面ごとの特徴と注意点を見ていきます。
