自分なりに頑張ってきたつもり。だけど、この先、どんな「キャリア」を目指せばいいのだろう。SNSには“別の生き方”もあふれている。自由に人生を選べる時代だからこそ、時にその「自由」に惑う。そんな悩める30代キャリア女子に伴走してくれるのは、元祖「働く女子」の鎌田由美子さん。その経験からチアアップの言葉を届けてもらいます。よろしくお願いします、ゆみこ先生!
鎌田由美子
30代半ばでJR東日本のエキナカ「ecute」を立ち上げ、子会社社長や本社部長を経て、2015年にはカルビーの上級執行役員に就任。19年に独立し、農産物や地域のブランディングを手がけるONE・GLOCALを設立、現在は地方を飛び回りながら多摩大学大学院の客員教授も務める。
プレジデントグロース編集N
2025年に32歳を迎えた女性。友人が続々と結婚や出産、キャリアアップなどの転機を迎える姿を見て、「自分はこのままで大丈夫なのだろうか……」と日々モヤモヤした気持ちを抱えている。
「議論」は反抗なんかじゃない
今日はいきなり質問から入らせてください。ズバリ、どうすれば上司や同僚ときちんと「議論」できるようになるのでしょうか。
お、今日はド直球ですね。
前回、「好き」×「仕事」で、自分なりに仕事への向き合い方が変わった感覚はあります。でも、次なる関門が……。これまできちんと議論をしてこなかったツケが回り、どう粘ればいいのかわからないんです。
なるほど。「議論=反抗」みたいに感じてしまっているのかな?
はい。特に同僚や上司は、明日もあさっても顔を合わせる関係性なので、場を乱してまで、自分の意見を通すのはどうなんだろうと……。
まず整理しましょう。「ゴネる」のと「建設的な議論」は全くの別物。そもそも、「議論」は何のためにすると思う?
よりよい落としどころを探るため、でしょうか。
そう、ポジティブに表現すれば、共通の目的を実現するために必要なプロセスともいえる。どんなに素晴らしいアイデアがあっても、それを形にするためには多くの人の協力や互いに腹落ちすることが不可欠。つまり、「議論」し合える仲間がいるというのは、「組織」にとって最大の強みともいえる。例えば、あなたは今朝どうやってこの会社に出勤してきた?
電車に乗って通勤してきました。
その電車や駅が機能するのは「組織」があるから。あなたが日々利用するコンビニも書店もカフェもそう。この世のあらゆる商品もサービスも、すべては「組織」がつくりあげた仕組みの上で生まれている。あなたが大好きな文房具も、膨大な企画・議論・調整・決断を経て、あなたの手元に届いているわけでしょう。つまり私たちは「組織」を介さずに生きることは、ほぼ不可能ということです。
たしかに……。そこで皆が「嫌われたくない」と遠慮していたら、何も形になりませんね。
もちろん嫌われるのは誰だって怖い。私だって怖いわよ。
え、鎌田さんでもですか?
そりゃ私も人間ですから(笑)。相手に不快な顔をされたり、押し黙られたり、やりづらくなるのは、いつだって嫌だよ。でも、そういうときは、自分にこう言い聞かせている。
「相手は私という人間を嫌っているんじゃなくて、私の提案や仕事の進め方に賛同できないだけ」って。それは立場が逆でも同じことで、昔私が上司だったとき、部下とやりとりをする場合でも、相手の好き嫌いで言うわけではないから。その人の企画や仕事の進め方がもっと良くなる可能性があるから、具体的に言っていた。ラリーの後はお互いの成長やより良いアウトプットにつながる。そこだけは忘れないでほしいな。
議論はキャッチボール。「なぜダメ?」の前に返す球を考える
例えば、鎌田さんが過去、「どうしても譲れない」とバトルしたのはどんなことでしたか。
たくさんありすぎて(笑)。例えば、今でも思い出すのはエキナカの女子トイレの個室数かな。駅のトイレは駅の乗降人数から利用者数を想定して便座の数が決まる。そこには昔からの算定基準の根拠がしっかりある。
当時の駅利用者が圧倒的に男性が多いのは数字の根拠があるけど、女子トイレだけ長蛇の列という光景は珍しくなかった。ecuteができたら構内の滞留時間も延びるので、女子トイレの個室数を増やしてほしい、さらには和便器をなくしてほしいと意見したら、バッサリ却下。事業部の異なる目上の役職の人たちが30人くらい居並ぶ会議の場で、「便座数の算定根拠、ちゃんと勉強しましたか?」と、分厚い資料をバン!と置かれて。そりゃもう、その場が凍り付きましたよ(笑)。
私なら即座に意見を取り下げそうです……。
私もできることなら、穏やかに議論に入りたかったけどそんな雰囲気じゃなかった。そして私には未来の女性利用者数が増えるという根拠は示せない。でも、ここで私が引いたら、女子トイレの長蛇の列はさらに続き、トイレの不満は駅空間の快適性や利便性にもネガティブな影響を与えると確信していた。なぜなら私も長蛇の列で不満を持つ駅利用者の一人でもあったから。
同時に、当時の私の立場はエキナカのプロジェクトリーダーで、この問題は私自身が変えていきたい重点策の一つだった。チームのメンバー達にいつも「壁はあって当たり前」と言っていた私が逃げたら、誰も信念を貫かなくなり、そうなればチームワークはガタガタで目指すエキナカにはたどり着かないとも思った。
それに私自身も、かつての上司から「逆境でも妥協しない背中」を何度も見せてもらっていた。過去には「ひえ~、そこまでやるの?」とドン引きしそうになったことも正直あったけど(笑)、ただ、それくらい腹をくくらないと新規事業なんて実現しないこともわかった。だったら、やるの「今でしょ」と。
まだまだ、私は組織のことまで考えられていませんでした……。
ただ、誤解しないで。「議論」=「ケンカ腰」じゃないってことを。社内は各人、各部署が、それぞれの立場と背景を背負い、「これがベスト」と考えることを持ち寄っている。そんな議論の場は、個別最適をこえて、課題の解像度を上げ全体最適のベストな着地点を見つけるのが目的だから。
例えば、こんなこともありました。私たちはecuteの床を、ポップな明るいデザインにしたかった。だけど、床材の決定権は鉄道事業本部にあって私の所属する生活サービス事業にはない。当初は「床材は鉄道サイドが決めるもの」ということで提案は早速No。しかし、話し合いを進めるうちに、彼らが守りたいのは一番大事な「安全」であって「デザイン」自体を否定しているのではないとわかった。ならば鉄道のこれまでの安全基準を満たした素材をもとにデザイン案を出せば、着地点は見えると思ったの。
快適で安全な施設をつくる、という目的は同じだから、必ずゴールは見えるはず、ということですね。恥ずかしながら、初歩的な質問をもう一つ。自分の企画が却下されたとき、「何でダメなんですか?」と返すのは……、正しい「議論」にはなっていませんよね?
「議論」は会話と同じで、キャッチボールだから、相手が「ここが弱い」と打ってくれた球に対して、豪速球で「何でですか!」と返すのは、ラリーになっていないかな。次はあなたが考えるターンだから。でも、もし「読者視点でここを変えてみました。まだ弱いですか?」と言われたら、私は具体的にアドバイスを打ち返す。
そもそもだけど、上司だって「正解」なんて持っていない。学校なら教科書に答えが載っているかもしれないけれど、実社会では上司も社長も「正解」は持っていないからこそ、皆で議論して、最適解を探していく作業も必要なんです。
とてもよくわかりました。
ミンツバーグで「強みの型」を知り、弱点は「人」で補う
では、今日も一つチェックリストをやってみましょうか。20世紀の組織論の大家、ミンツバーグが提唱した、「アート」「クラフト」「サイエンス」の3要素。自分自身が意思決定や行動においてどんなタイプなのかを知るチェックです。深く考えずに、直観的に答えていってみて。
できました。わたしは、アートが2個、クラフト7個、サイエンス1個です。
では、次にそれぞれの数をもとに、例のように線で結んでみて。
私は、完全にクラフトタイプに寄っている線になりました。
クラフト型は、現場で経験を積んで学んでいくタイプ。そういえば、以前に企画を考えるときは、まず書店に足を運ぶと言っていたよね。あれはまさにクラフト型の仕事の流儀。売り場という現場で、自分の仮説を打ち立てようとしてきたわけだから、Nさん向きで間違った手法ではないのよ。
だとすると、「サイエンス型」は、データや数値、理論を重視するタイプですか?
そう。現場での手応えよりも、データを集めて分析、仮説検証をして次の一手を打つ。編集者なら、売り上げや売れ筋傾向、タイトルやカテゴリー、著者等を分析してから企画をおこすタイプかな。
では「アート型」は?
ひらめき・直観・ビジョン型。自らの美意識でこれぞという著者を見いだし、無名でも育てる編集者がそのタイプかもしれないね。
ちなみに鎌田さんはどのタイプですか?
私は「アート型」だった。それも他の点数が、1しかないほぼ完全「アート型」。どうりで!と笑っちゃった。私の判断基準は、極端に言えば、「面白いか・面白くないか」。未来を想像してワクワクすることにエネルギーを注げたら最高だと思っちゃう。ただ妄想は得意だけど、他はからっきし。
なるほど。では、私が「クラフト型」だとすれば、私はアートとサイエンスの部分を伸ばせばいいのでしょうか。
そう思う? でもちょっと違うかな。自分に足りないところは、基本的に自分で補おうとしなくてよくて、むしろ得意な部分を伸ばしていくのが正解。思い出して、得意なことは「好き」とも重なるのよ。ミンツバーグのリストは、自分の「弱み探し」ではなく、反対に「自分の強みを知る」ためのツールだから。「ああ、やっぱり私はこのタイプだったのか」と腹落ちして、堂々と自分の道を歩めばいい。
でも、それだとサイエンス型の上司に詰められたら、終わりじゃ……。
だからこそ「組織」があるの! 自分一人では弱い部分が誰にでもある。それぞれ仕事スタイルが違う人が集結することで、お互いの不足を補いあえる。それがチームワークの強みなの。人によっては、私みたいに特定の型に寄る人もいれば、2つ3つの要素の間でバランスが取れている人もいたりする。そこが違う、ということがわかることがまずは大切です。
私は私のやり方を磨いていく。そして足りない部分は、「議論」や「コミュニケーション」を通じて、他の人に補ってもらう。よりブラッシュアップしていくために。そういうことですね。
そう、わかってきたじゃない。改めて問うけど、あなたが守りたいのは自尊心? それとも読者に喜んでもらえる企画? その目的さえブレなければ、議論は怖いものではなくなるはず。
明日の企画会議が少し楽しみになってきました。嫌われない努力をするより、しっかり「目的」を定めて、自分なりのボールを返せるように頑張ってみます!
(構成=三浦愛美 撮影=市来朋久 イラスト=水谷慶大)