売れる商品はどのようにして作られているのか。コンサルタントの山口周さんは「カスタマー・ハラスメントは世界中で問題になっているが、このような『甘やかされた子供』の要求に応え続ける企業は、誠実なように見えてじつは顧客のことを何も考えられていない」という――。

※本稿は、山口周『クリティカル・ビジネス・パラダイム 社会運動とビジネスの交わるところ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

ラップトップの上のヘッドセットと奥に置かれた電話機
写真=iStock.com/BrianAJackson
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顧客の欲求に応えるマーケティングには限界がある

アファーマティブ・ビジネス・パラダイムにおいて顧客は全面的な肯定の対象となりますが、クリティカル・ビジネス・パラダイムにおいては批判・啓蒙の対象になります。

アファーマティブ・ビジネス・パラダイムにおいては、顧客の欲求は全面的な肯定の対象となります。企業間の競争は、顧客の欲求をいかに精密に把握し、それを効果的に充足させられるか、という点にかかっています。マーケティングにおける市場調査の様々なテクニックは、そのような要請のもとに開発、洗練されてきた歴史的経緯があります。

しかし、ここに大きな問題があります。というのも、欲求の水準が低い市場でアファーマティブ・ビジネス・パラダイムを全開で推進すると、欲求の水準はますます低下し、結果的に、ビジネスが生み出す社会問題をさらに拡大、再生産してしまうのです。

なぜ自動車は「大きく、重く、うるさく」なっているのか

これはすでに拙著『ビジネスの未来』(プレジデント社)においても指摘したことですが、基本的なニーズが満たされた社会において、消費は社会的な地位を他者に見せびらかすための記号という意味を大きく持ちます。そのような社会において「他者に優越したい」という人々の欲求を肯定的に企業が受け入れ、これを満足させるために全力で取り組めば何が起きるか、は容易に想像できるでしょう。

たとえば、自動車の市場であれば「安全で快適で便利に移動する」という基本的なニーズから乖離して、路上において、派手に、他人より経済的・社会的に優位な立場にあることを他者に示したいという欲望によって、とにかく「大きく、重く、うるさく、派手に」ということが求められることになるでしょう。

そして実際に、ここ30年ほど、自動車は肥大化の一途を辿っています。本来、エンジニアリングというのは、進化することで「軽く、小さく、静か」になるはずなのですが、ここ数十年間、自動車は全般に真逆の方向、つまり「重く、大きく、うるさく」なっているのです。