トヨタ自動車には、15歳以上の企業内教育を行う「トヨタ工業学園」がある。3年間の高等部、1年間の専門部に分かれており、計約1万数千人の卒業生がトヨタの技術開発を支えてきた。いったいどんな学校なのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんによる連載「トヨタの人づくり」。第1回は「トヨタ工業学園とはなにか」――。
トヨタ工業学園で朝礼に臨む生徒たち。元気いっぱいの挨拶をしてから1日が始まる
撮影=プレジデントオンライン編集部
トヨタ工業学園で朝礼に臨む生徒たち。元気いっぱいの挨拶をしてから1日が始まる

最先端の技術者を育てる企業内学校

本連載のテーマはトヨタの人材教育だ。実際に取材したところはトヨタ工業学園(以下、学園)とトヨタ社内の最先端現場である。なぜなら、このふたつの場所にトヨタの人材教育の根幹がある。学園には中学を出た15歳の生徒が入ってくる。トヨタが親から預かった未成年の人間を大切に育てている。もっとも基本的なことを教えている。そこにはトヨタの人材教育に対する考えた方が如実に表れている。

もうひとつの最先端現場はトヨタが変化しようとする場所だ。新しい技術を使って次世代の商品づくりをしている場所だ。そこで働いている人間たちはこれまでのトヨタの教育で得た情報と考え方で未知の世界に挑んでいる。トヨタの教育の成果が表れているのが最先端現場だ。

さて、そこでトヨタ工業学園の話から。

広大な敷地に校舎とスポーツセンターが立ち並ぶ

わたしが初めてトヨタ工業学園のなかに入ったのは2017年だ。『トヨタ物語』(2018年日経BP刊、新潮文庫)の取材で授業を見学し、寮や食堂を見て回った。その時に「ここにはトヨタの人材教育(人づくり)の土台がある」と感じ、いつか一冊の本にしようと考えた。以来、名古屋、豊田市に行くたびに学園を訪ねて取材をした。

コロナ禍で2年は現地取材をしなかったけれど、学園の指導員、卒業生に7年かけて話を聞いた。自分なりに十分に納得したのでやっと本を出すことにした。

学園は名鉄豊田線の三好ケ丘駅から歩いて10分の場所にある。隣接というか同じ敷地にあるのがトヨタのスポーツセンターだ。スポーツセンターはトヨタの社員や家族、運動部が利用する。サッカーの名古屋グランパスエイト、ラグビーのトヨタ自動車ヴェルブリッツの練習施設もある。

施設は充実している。

サッカー、ラグビーがそれぞれできるフィールド、陸上競技用のトラック、体育館、プール……。オリンピックを開くことができるくらい充実した施設で、学園生は体育の授業やクラブ活動などで施設を使うことができる。

学園は男女共学。中学を卒業した生徒が入学する3年間の高等部、工業高校を卒業した人が入る1年間の専門部がある。定員は高等部が130名で、専門部が120名。これまでに両方を合わせて約1万数千名が卒業している。

在学中には手当として月に約17万円が支給される。その中で寮費、授業料、食事代をのぞくと月に平均5万円ほどの貯蓄ができる。