「BYD世界1位」は本当か?
自動車業界では、EV(BEV)開発を契機に、「脱成熟化」が起こりつつあります。そのゲームチェンジャーとなったのは紛れもなくテスラです。
テスラはEVの販売台数で長らくトップを独走してきましたが、2024年に入るとその勢いが減速し、2024年上半期(1~6月)の販売台数は83.7万台にとどまり、前年同期比で4.8%減少しています。
テスラとは対照的に販売が好調なのが中国自動車大手のBYD(比亜迪)で、上半期の販売台数は161.3万台(前年同期比28%増)に上り、テスラの約2倍の数値を達成しています。
これらの数値だけを見ればBYDに勢いがあると考えられますが、BYDの販売台数は新エネルギー車(NEV)全体の数値であり、プラグインハイブリッド車(PHV)の割合が全体の55%を占めることから、EV販売だけで比較すると、EV特化型開発事業者であるテスラが依然として世界首位を維持しているというのが実態です。
生産効率の面から見ても、BYDとテスラとの間には大きな開きがあります。1台当たりの自動車生産に要する時間の業界平均は60~90秒で、テスラが40秒と最も速く、トヨタやホンダが60秒でこれに続きます。
なぜこれほどのスピードで成形できるのか
一方、BYDは120秒を目標にして取り組んでいますが、実際には600秒もの時間を要しており、特にバッテリーの自動組み付け工程が5分以上かかっているのが最大のボトルネックになっています。
このように、NEV全体で販売が好調なのはBYDですが、EV開発に特化すると、販売台数に加え生産効率の面においてもテスラが先行しており、業界をリードしていることがわかります。
それでは、創業からわずか20年余りのテスラが、BYDはもとより老舗の優良自動車メーカーであるトヨタやホンダを凌駕して、生産効率を高めることができたのはなぜでしょうか。
自動車のバリューチェーンは、一般的に、「研究開発」に始まり、「部材調達」「生産」「マーケティング」「流通」「アフターサービス」のプロセスをとりますが、テスラは、生産工程にフォーカスして価値連鎖を高めています。
自動車の生産においては、リーン生産方式がガソリン車における優れた生産方式としてすでに確立されていますが、テスラは、EV開発において新たに、「ギガキャスト方式」を導入し、「部品数削減」「コスト削減」「生産ライン簡素化」の3つを実現し、劇的に生産効率を高めることに成功しています。