下部パーツだけで171点もいる部品をどう減らすか
ギガキャストは、大型のダイカストマシンでEVの車体構造を一体成形する技術ですが、複雑な車体構造の一体成形が実現できれば、車両開発にかかる時間が従来の3~4年から1.5~2年へと短縮が可能となり、開発工程にもその効果が波及することになります。
テスラが、ギガキャスト方式を採用するに至ったのは、Model-3の生産において、リアとフロントのアンダーボディのパーツだけで171点にも及ぶ板金部品を溶接する複雑な方法で製造されている点に着目したからです。
これらの板金部品を減らすために、テスラは現行よりもはるかに大きなダイカストマシンで「一体成形部品」を成形する方法を思いつきましたが、2015年当時、そのような大型のダイカストマシンは存在せず、その型締め力は、大きいものでせいぜい4000tf(トンフォース)程度でした。
そこでテスラは、さまざまなメーカーに大型のダイカストマシンの開発を打診しますが承諾が得られず、イタリアのイドラ(IDRA)だけが前向きな姿勢を示し、やがて6000tfのダイカストマシンをテスラに提供するに至ります。
ダイカストマシンは、その大きさから“ギガプレス”という言葉が生まれ、ギガプレスを使ったアルミダイカストは“メガキャスト”と呼ばれるようになり、さらにトヨタが2023年6月に、“ギガキャスト”と公表したことから、これが定着するようになります。
溶接1600箇所を0に減らすことが可能
ギガキャストは、2020年にModel-Yの車両後部のアンダーボディの製造に初めて採用されたことにより、生産効率を一気に高めることに成功します。
部品数の削減では、Model-3で171点もあったリアとフロントのアンダーボディの板金部品をわずか2点に、また溶接1600箇所を0に減らすことが可能となります。コストの削減では、ギガプレス1台の導入で溶接用ロボット300台の削減を実現したことから、製造コストは従来に比べ4割削減するに至ります。
生産ラインの簡素化では、ロボット数の削減がコンパクトな生産ラインの設計をもたらし生産面での最適化がさらに図られることになります。その他にも、一体成形品として仕上げることで車両の強度と剛性も高まることから、車体の走行性能を引き上げることが可能となります。
こうした生産効率の向上により、ギガキャストはEV製造においてデファクトスタンダード(事実上の標準)を確立しつつあります。
このように先行するテスラに対して、日本メーカーも追随していく構えを見せています。なかでもトヨタは、EVの競争で優位性を生み出すために生産工程の抜本的見直しに取り組み始めています。