トヨタ自動車には、15歳以上の企業内教育を行う「トヨタ工業学園」がある。3年間の高等部、1年間の専門部に分かれており、卒業生の多くがトヨタに就職する。大卒者が多くを占める現代で、なぜ民間企業が職業学校を運営するのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんによる連載「トヨタの人づくり」。第2回は「職業学校を続ける意義」――。
トヨタ工業学園の卒業生で、副社長を務めた河合満さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
トヨタ工業学園の卒業生で、副社長を務めた河合満さん

なぜこれほど「人づくり」にお金をかけるのか

トヨタの人づくり、人材教育が効果を上げているところが学園であり、最先端現場だ。このふたつの場所ではつねに先進的な教育内容、教育ノーハウを採り入れている。学園は変容し、進化する学校だ。そういう場所では生徒よりもむしろ指導員の負担が大きい。

スマホアプリ開発、AI技術といった最新技術分野にはこれといった教科書があるわけではない。指導員だからといってスマホやAIに詳しいわけではないから、人に教えることができるようになるまで自らが学ばなくてはならない。そして、最新知識を入手して、教えながら学びを続ける。

毎年、同じ教科書で生徒に教える人たちでは務まらないのが学園の指導員であり、トヨタの教育セクションの人間だ。

学園でも、トヨタでも、指導員、教育担当を教育するシステムがきちんと整備されている。それがあるから学園の指導員、教育担当は生徒、社員に教えたり、研修を受けさせることができる。

トヨタの強みは教育、人づくりにお金と時間をかけていることに尽きる。

では、トヨタと学園の教育の特長を挙げていこう。

高校の無償化が進み、企業内学校は数えるほどに

まず、トヨタ工業学園は数少ない企業内学校であること。一般の高校とは違うところがいくつかある。

企業内学校の数は数えるほどになった。トヨタ工業学園をはじめとして、日野工業高等学園(東京都日野市)、日立工業専修学校(茨城県日立市)、デンソー工業学園(愛知県安城市・刈谷市)といったところだけになっている。

高等教育が全国で無償になりつつある今、企業内高校、職業高校は独自のカラーがなければ存在しづらくなっている。元々、企業内高校、職業高校に進学するのは高校を終えると働く人たちだった。大学に進学する余裕がなく、専門教育を経て社会に出る人たちが通っていた。

ただ、そういう人たちは高校の授業料が無償になれば普通高校へ進み、そして大学を目指すようになった。そのため、企業内学校、職業高校に進む人たちががくんと減ってきたのである。

一方で、企業内学校に進みたい人もいる。その人たちのために企業内学校をなくすわけにはいかない。それにはまず大元である親会社が堅実な業績を維持し、成長していなくてはならない。親会社が青息吐息では学校経営ができないし、志望者も出てこない。

トヨタは創業以来、教育に力を入れてきた。会社もまた業績を上げてきた。それもあって学園を志望する人間は減っていない。そして、学園は会社に頼りきりではない。学園には普通高校や他の職業高校が持っていない特徴がある。その特徴はトヨタの人材教育と通底している。学園とトヨタは同じ考え方、姿勢で生徒、社員を教育している。