副社長を務めた学園OBが語る「失敗の許容」
2番目の特長だ。学園およびトヨタの現場では、指導員(上司)は生徒(部下)が意欲を持ってチャレンジしたいと言ってきた時、「失敗するだろうな」とわかっていても、挑戦させる。
おやじの河合(満、トヨタ元副社長)はかつてこう言っていた。
「会社に入って鍛造現場に配属され、働き始めた時、自分で考えたカイゼンをやった。上司に頼んで予算を出してもらい、部品を置く棚を外注して作ったんだ。ところが、いざ、届いたら、高さが合わなかった。少し高かったんだ。まったく使えなかった。すると、その様子を見ていた上司が言った。
『河合、俺は図面を見た時、ちょっと高いんじゃないかと思った。だが、やらせてみた。やってみないとわからないだろう。これからは外注する時はもう一度、確認しろ。俺を使っていいから、俺の身長に合わせて部品棚を設計しろ』
トヨタにはそういうところがある。予算を使って失敗すると、身に染みる。上司はそのためにやらせたんだ。あの失敗を自分は忘れない。一生、忘れない」
トヨタではこうやって仕事を教える。失敗を隠したり、忘れさせるのではなく、顕在化する。顕在化させてから失敗や問題を解決していく。これはトヨタ生産方式の考え方のひとつでもある。
すぐに「失敗だ」と言う人間は傲慢である
「失敗を見つめる」ことは大切だ。失敗を見つめて人は成長していく。洋画家の中川一政は「失敗を見つめる」ことについて、こんなことを言っている。
ある日のこと、中川は彼を慕う俳優の渡辺文雄と陶芸をやっていた。渡辺は中川のすぐ横でろくろを回し、粘土で陶器を作ろうとしていたのである。渡辺は土をこねて陶器を作ろうとしていたのだが、思ったような形にならなかったため、ぐしゃっと粘土をつぶしてしまった。
すると、中川は言った。
「どうしてつぶしたの?」
「失敗です。失敗しました」
そうか、と呟いた後、中川は渡辺に言った。
「失敗だなんて……傲慢だね……。あれは失敗なんかじゃない。あれが今の君自身、……君、そのものなんだ。(略)
作品というものは、そういうものなんだ。誰が作ったのでもない。君が君の心で創ったのが、あれだ。それをつぶしたところで、土はつぶれて元の土くれに戻すことはできても、……そのときの君の心までは……消し去ることはできない。目の前から土の形を消し去って……失敗だ、の一言で安心してしまうなんて……安っぽ過ぎる。……卑怯すぎる」(略)