少子化時代の大学の“生存戦略”にもなりえる

こうした専門教育機関は大学よりもむしろ企業が作ればいい。IT、AIの先端技術を教える人材は大学ではなく、むしろ、先進企業にいるからだ。そして、一度、社会に出た人が戻って学ぶことのできるシステムの組織であればなおさらいい。または東大のような一流大学が企業の助けを借りて設立してもいいだろう。座学だけではなく、公的機関、民間企業での実習をカリキュラムの柱とする。

さまざまな大学を出た人間が東大が作る専門部に入るわけだ。すると彼らの最終学歴は企業もしくは東大の専門部になる。当初は「あいつは東大でも専門部だから」と言われるかもしれない。しかし、いずれ、東大や企業の専門部卒業者の数が増えていけば大学のランク付けは意味をなさなくなる。ひいては学歴偏重、学閥はなくなる。

少子化の現在、各大学は生き残るための方法を模索している。一方で、民間企業は先端知識、技術を理解する若者を欲している。一流大学と呼ばれていない大学に入ったとしても、東大専門部で学ぶことができれば大手企業、IT企業に入社することができるのではないか。

大学も企業も、学生にとってもメリットがある

わたしはトヨタ工業学園を取材して、さまざまな知見を得たけれど、もっとも考えさせられたのは専門部というシステムだ。少子化時代の日本で学生に入ってもらいたい企業、新しい学生が必要な大学にとって先進技術の専門部を持つことは解決策のひとつだ。夢みたいな話かもしれない。しかし、どこかの大学が先進企業の助けを借りてこうした試みをスタートすると信じることにする。

学園には、技能五輪出場へ向け課題に取り組む学生もいた
撮影=プレジデントオンライン編集部
学園には、技能五輪出場へ向け課題に取り組む学生もいた

なぜなら効用があるからだ。

専門部を設立した大学は学生を増やすことができる。企業はIT、AIに優れた人材を採ることができる。一流大学を出ていない学生は「専門部卒業」という資格と先端技術を取得したために一流企業に就職することができる。

世の中の人々は大学卒の肩書よりも、IT、AI技術のほうが価値があると認識し、その結果として学歴偏重の風土が薄まる。三方よしとはこのことではないか。

学園の専門部は未来型だ。少子化時代の教育機関にとって、未来へ向かうための示唆を与えてくれるところだ。教えることだけが先進的なのではなく存在自体が未来型の教育施設となっている。大学関係者、教育関係者は専門部を視察して、この施設から学ぶべきだ。同時にトヨタは学園専門部の定員をさらに増やしていくべきだ。加えて豊田工業大学でも他の大学から進学できる1年制の教育機関を作ることを考えるといい。