トランプ政権は日本にコメ市場の開放を迫っている。自由化されればコメの値段は下がるのか。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「米価は下がるだけでなく日本の農業が復活するきっかけになる。関税撤廃について農家の反発が大きいという報道があるが、主業農家は恐れていない。恐れているのは農水省とJA農協だ」という――。
現地時間2025年4月16日午後4時半から約50分間、米国・ワシントンD.C.を訪問中の赤澤亮正経済再生担当大臣は、ドナルド・トランプ米国大統領を表敬訪問
現地時間2025年4月16日午後4時半から約50分間、米国・ワシントンD.C.を訪問中の赤澤亮正経済再生担当大臣は、ドナルド・トランプ米国大統領を表敬訪問(写真=内閣府/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

主業農家はコメ関税撤廃を恐れていない

10年ほど前、TPP交渉への参加反対にJA農協が1200万の署名を集めていたころ、私は秋田県の米どころの市に招かれて講演し、TPP参加が必要だと訴えた。質疑応答に移ったとき、ある農家が「我々のコメはどこにも負けない。さっき農協の組合長はTPP反対と言ったが、我々はコメの関税なんか要らないので撤廃してもらいたい」と発言した。これには驚いた。この人は村八分にされかねないと心配した。しかし、さらに驚いたことに、その発言の直後に場内から一斉に拍手が起こったのだ。

規模の大きな主業農家は輸入米との競争を恐れていない。

コメ貿易の自由化を恐れているのは、コメの価格低下で零細な兼業農家が組合員でなくなり預金が減少するJA農協とそれにすがる農水省・農林族議員だ。

※「だから「コメの値段」は下がらない…「転売ヤーのせい」にしたい農水省と、「利権」を守りたいJA農協の歪んだ関係」参照

江藤農水相は22日の閣議後記者会見で、「主食であるコメを海外に頼る体制を築くことが国益なのかは、国民全体として考えてもらいたい」と発言した。

しかし、“主食であるコメ”と言うなら、その価格を高騰させ国民に多大な負担をかけているのは誰なのか? 主食であるコメに補助金を出して1967年の生産量の半分以下に減産(減反)してきたのは、誰なのか? 農水省は輸出を35万トンに拡大する目標を掲げながら輸入を拒否するのは身勝手すぎないか? 今回のコメ騒動で農水省は国民への食料の安定供給を果たせないことが明らかになった。戦後の食糧難はアメリカの食料援助が助けてくれた。国民に困窮を強いる農水省に代わり、アメリカに日本の窮状を救ってもらって何が悪いのか?

参議院選挙前にアメリカに大きな譲歩はできないと言うが、今回のコメ価格高騰で彼らが行ってきた農政への国民の怒りは沸点に達している。地方で農林族議員が落選しても都市部でコメ貿易の自由化を推進する政党への支持は高まる。「農政(ノー政)にNO」を突き付けるのだ。参議院選挙は、農業の発展や食料安全保障を損なってきた農政トライアングルを弱体化させる絶好のチャンスだ。

関税撤廃でコメ農業は発展する。