ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月24日から3年がたった。泥沼化した原因は何か。『現代の「戦争と平和」 ロシアvs.西側世界』(ケイアンドケイプレス)より、元外交官の東郷和彦さんと元駐日ロシア大使のアレクサンドル・パノフ氏との対談の一部を前後編にわけてお届けする――。(前編/全2回)

対ロ制裁に効果はあったのか

【東郷】ロシアはウクライナ戦争が始まった当初、ウクライナから予想外の反撃を受けました。また、西側が一斉に経済制裁を科したので、すぐにロシアは音をあげると見られていました。ところが、ロシアは新しい状況に適応し、むしろどんどん力を増しています。

【パノフ】集団的西側はロシアに戦略的敗北をもたらすために、ロシアを包括的に抑止しようとしました。それは単にウクライナを援助するだけではなく、ロシアを政治や貿易、金融、文化、科学、スポーツの分野で孤立させるということです。

この政策が実施されてから2年半(※)が経過しました。しかし、彼らが期待した成果が得られていないことはもはや明らかです。

※編集部注:2024年5月対談当時

ロシアに非友好的な国は約40カ国に及びますが、その大部分がヨーロッパ諸国です。しかし、ロシアはほとんどすべてのアフリカ諸国、多くのラテンアメリカ諸国や中東諸国、アジア太平洋地域と関係を強化しています。政治的に孤立させることに失敗したということです。

販路を失ったロシア原油はどこに…

ロシアに対する制裁対象は史上最多の4000以上にのぼり、様々な制限や禁止が科されていますが、アメリカが期待したようにロシア経済をズタズタに引き裂くことはできていません。

ロシア経済開発省が2024年初めに発表したところによれば、2023年のロシアの経済成長率は3.6%でした。教育や工業など、経済のすべての主要セクターでプラス成長となりました。

もちろん、ロシア経済が損害を受けなかったわけではありません。ヨーロッパへのガス及び石油の輸出は減少し、2023年には非資源・非エネルギーの輸出額は約25%も減少しました。額にして1463億ドルです。

石油タンカーのパイプライン
写真=iStock.com/MenzhiliyAnantoly
※写真はイメージです

そのため、ロシアは新しい輸出先を探さなければなりませんでしたが、すぐに見つかりました。

たとえば、2023年のロシアと中国の貿易額は過去最高の2400億ドルに達し、前年比26%の伸びを記録しました。インドへの石油輸出も大幅に増加しています。その結果、ロシア経済は急速に再建されました。