ウクライナでの戦闘をめぐって、トランプ次期米大統領が「即時停戦」を訴えている。どうすればプーチン大統領を止められるのか。元外交官の東郷和彦さんは「相手理解なしに交渉は進みようがない。『プーチン悪玉論』に終始するのではなく、まずはロシアの論理を正確に知るところから始めるべきだろう」という。元駐日ロシア大使のアレクサンドル・パノフ氏との対談から、その一部をお届けする――。

※本稿は、アレクサンドル・パノフ、東郷和彦『現代の「戦争と平和」 ロシアvs.西側世界』(ケイアンドケイプレス)の一部を抜粋したものです。

ウラジーミル・プーチン大統領。2024年12月24日、ロシア、サンクトペテルブルク
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
ウラジーミル・プーチン大統領。2024年12月24日、ロシア、サンクトペテルブルク

ロシアは現状をどう認識しているのか

【東郷】ウクライナ戦争の結果、国際秩序は大きく変化しつつあります。ロシアは新しい国際秩序をどう考えていますか。

【パノフ】ロシアは特別軍事作戦で、プーチン大統領が当初設定した目標に加え、長期的な目標も達成しようとしています。具体的には、欧州だけではない新しい集団安全保障システムを構築することです。

欧州安全保障協力機構(OSCE)が設立されて以来、欧州の安全保障はこのシステムに基づいて構築されてきました。もともとロシアはこのユーロ・アトランティック・モデルを基礎とし、新たな歴史的状況に照らして改革を進めることが必要だと考えていました。しかしソ連崩壊後、これが実現不可能なことが明らかになりました。

いまロシアはユーラシア大陸を一つの大陸と捉え、ユーラシア安全保障システムを構築することを提案しています。ラブロフ外相が述べたように、モスクワと北京はすでにそのような構想について話し合いを始めています。

プーチン大統領は「独裁と暴力の原則に断固として反対」

【東郷】ロシア指導部は未来をどう見ているのでしょうか。

【パノフ】プーチン大統領は2023年10月5日、ヴァルダイ国際フォーラムで講演し、ロシアの未来の世界像と国益について次のように説明しました。

ロシアは独裁と暴力の原則を公言する人々に断固として反対します。ロシアは万人のために平等と正義を保証する国際秩序を支持します。

すべての国家の利益のために普遍的な安全保障を確立し、ブロック化や植民地時代の遺産から国際関係を解放することが重要であると考えています。多極化した世界は、多様性と集団的意思決定に基づいて構築されるべきです。