※本稿は、今野晴貴『会社で働くとなぜ幸せになれないのか』(SB新書)の一部を再編集したものです。
会社員の夫を「飼育」する妻たち
日本経済が世界最高だったころ、自主的な企業への協力は、労働者の妻たちにも求められた。大手企業では妻たちを男性に奉仕するように積極的に「教育」しようとしたのだ。
大企業の妻たちの生活を丹念に研究した木下律子によれば、ある大手企業の人事部では「家庭人教育」と称して、「夫の飼育法二十ケ条――夫が妻に望むこと」という指導を行っている。
②良人を全面的に信用すること。良人は外でもてないもの。
③良人の服装には細心の注意を払うこと。
④家庭での化粧を忘れぬこと。
⑤会社のことは絶対しゃべらない。
⑥家事のことはタイミングを心得てきりだすこと。
⑦夫の地位と自分とは無関係だと思うこと。
⑧会社が大事か家庭が大事かなど追いつめないこと。
⑨他人と比較しない。
⑩日曜は夫の慰安日であること
⑪夫の趣味を理解しなさい。
⑫夫の友人を大切にすること。
⑬家庭に於て亭主関白にしてやること。妻であり主婦くさくならない。
⑭少しは良人をよいキゲンにしてやれ。
⑮訂正できないものは文句をいわない。
⑯過去のことをすぐ持ち出すな。
⑰子供中心もほどほどに。
⑱へそくりは当然と思うこと。
⑲もっとユーモアを。
⑳尻をひっぱたかないで夫と一緒に走れ。
(『妻たちの企業戦争』207~209頁)
ここには、当時の企業が求めた妻の像がよく表れている。会社は妻たちをもマネージメントし、それによって夫を管理しようとしたのである。
主婦の妻が監視された社宅住まい
社員が暮らす社宅では、私生活が直接に監視されていた。会社の人事部から家族の生活状況が管理され、住民同士の相互監視も行われる。妻が購読している雑誌の種類や日中出かける先まで、人事部によって把握されていることもあった。
妻がもし反企業的な雑誌を読んでいたり、日中に企業の市民団体や労働組合に接触していたりする場合、夫や妻本人が人事部に呼び出された。結果、別の地域に転勤させられてしまうということも珍しくなかったという。