トランプ再選に対する期待

【東郷】ロシアではアメリカ大統領選の行方はどう見られていますか。

【パノフ】2024年2月8日、プーチン大統領はアメリカのジャーナリスト、タッカー・カールソン氏のインタビューで、ロシアにとってバイデン氏とトランプ氏のどちらがアメリカの大統領候補としてふさわしいかという質問に対して、次のように答えました。

アレクサンドル・パノフ、東郷和彦『現代の「戦争と平和」 ロシアvs.西側世界』(ケイアンドケイプレス)
アレクサンドル・パノフ、東郷和彦『現代の「戦争と平和」 ロシアvs.西側世界』(ケイアンドケイプレス)

「それは指導者の人格の問題ではなく、エリートたちの気分の問題です。もしアメリカ社会の中でどんな対価を払ってでも、力ずくでも支配しようという考えが優勢なら、何も変わりません。しかし、客観的な状況は変わりつつあります。アメリカが現在持っている利点を生かし、変化する世界に適応していく必要があると認識できるなら、何かが変わるかもしれません。」

プーチン大統領はここでアメリカのロシアに対する原則的態度について語っています。ロシア指導部は特別軍事作戦のいかんにかかわらず、アメリカがロシアを敗北させるか、疲弊させる路線を変更することを期待していません。この見方はロシアの政治家、政治学者、企業代表、メディアの間で広く共有されています。

【東郷】興味深い指摘です。ロシアのエリートたちの根深い対米不信を感じます。

【パノフ】ロシアとアメリカの関係が悪化したのはトランプ政権時代からだと指摘されています。トランプ政権は対ロシアと対中国という二重の封じ込め政策を実施しました。アメリカの国防費は増額され、アメリカの同盟国も軍事予算の増額を求められました。

また、アメリカはいかなる軍備管理義務も拒否しました。中距離核戦力全廃条約を失効させ、オープンスカイ条約からも脱退しました。外交闘争が開始され、ロシア領事館事務所は閉鎖、外交官の定員削減と追放が行われました。

【東郷】アメリカとの関係改善を期待しないとすると、プーチン大統領はどのようなロシアを目指しているのでしょうか。

【パノフ】それはプーチン大統領の発言から読み取ることができます。

2024年5月9日、1941年から1945年の大祖国戦争の勝利記念日に行われた軍事パレードで、プーチン大統領はロシアの外交政策の基本目標を示しました。そこで、「ロシアはいかなる国家や同盟の優越性も拒否する。ロシアは世界的な衝突を防ぐためにあらゆることを行う。誰もロシアを脅かすことは許されない」と述べました。

プーチン大統領はウクライナで特別軍事作戦に従事している人たちは、我々の歴史的な土地を解放し、独立させるために戦っていると考えているのです。

(後編につづく)。

記者会見するトランプ米大統領(左)とロシアのプーチン大統領=2018年7月、フィンランド・ヘルシンキ
写真=ロイター/共同通信社
記者会見するトランプ米大統領(左)とロシアのプーチン大統領=2018年7月、フィンランド・ヘルシンキ
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