なぜ格差はなくならないのか。作家の佐藤優さんは「新自由主義はすべての人を市場原理に従わせるという考え方で、あらゆる格差を生み出すシステムと言える。その影響がもっとも大きく現れているのは東京だ」という――。

※本稿は、佐藤優『佐藤優の特別講義 民主主義の危機』(Gakken)の一部を再編集したものです。

貧しい人がさらに貧しくなるカラクリ

新自由主義の基本は、すべて市場原理に従うという考え方です。市場原理に従うことで所得格差は広がり、富める者はさらに富み、貧しい者はさらに貧しくなっていく。新自由主義がもたらしたアメリカの様相を、言語学者チョムスキーは次のように語っています。

大多数の国民が、新自由主義の原理に従って、「市場にすべてを任せろ」「自由競争の原理に従え」と言われているのです。こうして、アメリカ国民はお互いに競争させられるなかで、さまざまな権利を奪われ、社会保障を削られ、あるいは破壊され、もともと限界のあった医療制度さえ削られ、あるいは縮小させられているのです。これらはすべて市場原理主義の結果です。

しかし、富裕層にとっては、このような原理「市場にすべてを任せろ」は適用されていません。富裕層にとって国家は、いつでも何かことが起きたときには駆けつけて救済してくれる強力な存在ですから。(『アメリカンドリームの終わり――あるいは富と権力を集中させる10の原理』)

格差がはっきり現れるのが大都市圏

新自由主義は「すべてを市場原理に従わせろ」と言って、このルールに貧しい人々を絶対的に従わせる一方で、富裕層については優遇します。こうした不平等が厳然として存在している以上、格差が広がっていくのは当然です。

大企業や大銀行が倒産し、バブルが崩壊したときに、どれだけ多くの公的資金が大企業や大銀行に導入されたかを思い出すだけで、チョムスキーの言説が正しいことは明確に理解できます。

新自由主義の社会では、いくらでも格差が広がっていきます。それはまぎれもない事実として認識できるはずです。資本の大きさに比例して、幾何級数的にワニの口のように格差が広がっていくのです。

そのいちばんの影響が現れるのが、大都市とその周辺部です。都市にはさまざまな階層の人間がいて、自国民だけでなく外国人や移民も多数住んでおり、そこでは経済的な格差がはっきりと見える形で展開しています。

東京の街並み空撮
写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
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