いい職場とは、どんな職場なのか。企業の新規事業開発を支援する「インキュベータ」代表の石川明さんは「かつてはどこの会社にもあった喫煙ルームは、今考えれば肩書を気にせずに相談できる『壁打ち』の場所でもあった。それがなくなった現代では、上司には『壁打ちしやすい存在』になることが求められている」という――。

※本稿は、石川明『すごい壁打ち』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

テレワークの仕事中の休憩
写真=iStock.com/mapo
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「直接話した方が早い」のに、声をかけにくい

組織が大きくなるほど、「直接話せば済むことなのに」と思う場面が増えてきます。しかし実際には、組織の規模が大きくなるにつれ、部署間の壁は高くなり、役職間の階層も厚くなっていく。その結果、人と人とを繋ぐ対話は減っていきます。こういった壁は、単に「もっとコミュニケーションを密に」と呼びかけるだけでは、なかなか低くはなりません。

そこで私が提案したいのが、壁打ちの文化を広めること。特に「違う立場の人との壁打ちこそ価値がある」という考え方を浸透させることで、組織の中の部署や階層の壁を超えたコミュニケーションを増やしていくのです。

わざわざ毎日話す必要はありません。壁打ちをきっかけに一度話したという経験があるだけでも、お互いの距離は縮まります。「直接話した方が早い」と感じたときも、声をかけやすくなるでしょう。

横の繋がりや、上下の関係での、コミュニケーションが増えれば、仕事の質もスピードも自然と上がっていきます。

「話したら簡単に解決した」は意外と多い

そして、壁打ちが持つ最も大きな効果は、社員を孤立させないことです。「仕事は一人でするものじゃない」とはよく言いますが、実際には誰もが自分一人で問題を抱えてしまい、行き詰まりや停滞を経験します。ただ、抱えた問題を個人の中から表に出してもらうのは、意外と難しいものです。

「一人で抱え込んでいたけど、話してみたら意外と簡単に解決した」、こんな経験を、多くの人がしているはずです。

壁打ちは、「まずは話してみる」「とりあえず聞いてあげる」という至ってシンプルな行為に名前を付けることで、それを実践しやすくしているのです。この方法が組織に根付けば、必ず組織のパフォーマンスは上がっていきます。

本来別々の個人が集まっただけの集団を、一つの組織として機能させるのは、難しいことです。だからこそ「マネジメント」「リーダーシップ」「ファシリテーション」など、さまざまなスキルが求められます。そんな中で、壁打ちは驚くほどシンプルでわかりやすい方法です。人と人とを繋ぎ、一人では生み出せない価値を、最も手軽に作り出せる方法だと私は考えています。

やってみれば意外と簡単な壁打ち。しかし、自然に広まっていくのを待っているだけでは時間がかかります。「やってみよう」と思う人を最初に増やすために、何か工夫ができないでしょうか。最後は、その具体的な方法についてお話ししていきます。