モヤモヤした思考を言葉にすることで見えてくる景色

組織の上席者が「壁」となって、未完成の考えを受け止める姿勢を見せること。それによって、「わからないことは必ずしも恥ずかしいことではない」というメッセージが伝わります。

これから先、世の中はますます「正解がわからない」世界に向かっていくでしょう。そんな時代に、「わからないことは恥ずかしい」「正解が出るまで人に話してはいけない」という風土では、物事は前に進みません。まして、「わかったふり」が蔓延まんえんする組織は、必ずどこかで道を誤ります。壁打ちを通じて、「わからないことを話せる」という風土を育ててください。これからの組織にはそんな風土が必要不可欠なのです。

組織は上下の命令系統をはっきりさせた方が、正確で素早い運営ができます。「上」の人が指示を出し、「下」の人がそれに従う。そんなシンプルな関係は、わかりやすく効率的でもあります。

しかし、これは「上の人の方が正解をよく知っている」という前提があってこそ成り立つ仕組みです。今のように環境が目まぐるしく変化する時代に、そんな前提は通用するでしょうか。

優秀な上司は「知恵を貸してくれ」という

未知の領域に踏み込むとき、上の人にも下の人にも、正解は見えていません。確かに上の人の方が経験は豊富かもしれません。ただし基本的には、「どちらもよくわかっていない」状況が増えているのです。

もし部下が「上司は何でもわかっているはず」と思い込んでいたら、そこにズレが生まれます。だからこそ上司は、「自分にもわからないことがある」という姿を、時には見せていくのが効果的です。

もちろん、最後は誰かが決断を下さなければなりません。その役割と責任は、やはり「上」の人が担うべきでしょう。それでも、そこに至るまでの過程では、上下の壁を取り払って意見を交わせた方が、より良い答えに近づけるはずです。

正解が見えない領域では、組織の上下関係にかかわらず、お互いが「壁」となって意見を交わし合う。そんな関係が理想的です。

石川明『すごい壁打ち』(サンマーク出版)
石川明『すごい壁打ち』(サンマーク出版)

上司からも積極的に部下に「壁打ち」を持ちかけてみてはどうでしょうか。最初は部下も戸惑うかもしれません。

しかし、それは上司自身が「わからないことに真摯に向き合おうとしている」姿を見せることにもなります。そんな姿勢こそが、組織にフラットな対話の文化を根付かせる第一歩となるのです。

壁打ちの活用によって、みなさんの手がけるビジネスがより強く素晴らしいものとして発展していかれることを祈念します。

さぁ、壁打ちを始めましょう!

【関連記事】
【第1回】本当に頭のいい人は「営業日報」の書き方が違う…「小さな1件」から大きな成果を生むための"さりげない一言"
「がんばれ」と言うよりよほど効果的…「やる気のない部下」の心に火をつける"脳科学的に正しい声かけ"
本当に頭のいい人は「論破」などする必要がない…さりげなく自分の意見を押し通すとっておきの「三段論法」
「私が正しい」の一点張りで職場が疲弊する…悪気のない「オレサマ人間」を一発で黙らせる"最強の切り返し"
「今から行くから待ってろコラ!」電話のあと本当に来社したモンスタークレーマーを撃退した意外なひと言【2023上半期BEST5】