堀紘一さん_高市首相FV

課題は多いものの、株高が続き活気を取り戻しつつある日本経済、そして主役である日本企業。そこへ熱いエールを送り続けるのがボストン コンサルティング グループ(BCG)日本法人やドリームインキュベータを率いた“伝説のコンサルタント”堀紘一さんです。今回は、東京都心で続くマンション価格高騰の裏側について語っていただきます。

中国の不動産バブル崩壊が遠因に

コロナ明け以降、東京都心を中心とするマンション価格の高騰が続いています。中国など海外資本による投機的売買が値上がりの大きな要因とされ、外国人名義の居住実態のない住戸が増えるなど、実需を伴わないまま価格が上昇している様子は、マンションバブルともいわれます。

日本人の不動産に対する信仰には根強いものがありますが、中国人はどうやらそれ以上のようです。中国では若い男性は、マンションを持っていないと結婚の対象から外れてしまうともいわれます。こうした不動産信仰の原因は、中国人も日本人も農耕民族だからでしょう。一番大事なのは土地であって、2番目が水、3番目が太陽、つまり日当たりで、4番目が労働力。そんな価値基準があるように感じます。

中国人は自国の政府を信用していないし、現金もあまり信用していません。そのため金(ゴールド)を買ったり、アメリカドルに両替したりして財産を保全しようとします。中でも一番の投資対象が不動産でした。

中国では1998年の住宅制度改革で住宅の支給制度が廃止され、個人の住宅購入が可能になって以来、2010年代にかけて不動産価格の長期的上昇が続き、かつての日本と同様に「不動産は値下がりしない」という土地神話が生まれました。強い不動産信仰に支えられ、永遠に上がり続けるように思われた不動産価格でしたが、習近平政権が2020年8月に指示した「三道紅線(3本のレッドライン)」と呼ばれる不動産企業に対する銀行融資の規制をきっかけに、20年以上続いた不動産バブルは崩壊します。以後は不動産不況が続き、かつての買値の3割引きでも売れない状況になっています。

不動産バブル崩壊により中国国内で投資のためにマンションを買う動きは止まりましたが、中国人の不動産信仰自体は相変わらずのようで、21年以降はそれ以前からあった海外不動産への投資が加速しました。カナダやオーストラリア、韓国では中国人が不動産を買いあさった結果、大都市の不動産価格が高騰し、カナダでは23年に外国人による住宅購入を2年間禁止する法律を制定、25年には2年間の延長を決めました。オーストラリア政府もこれに倣い、外国人による住宅購入を2年間禁止する政策を25年4月から施行しています。韓国政府も25年8月、ソウル全域を含む首都圏で外国人が家を買う場合には資金の出所などを立証できる書類を提出し、政府の事前許可を受け、購入後2年間は実際に居住しなければならないとする規制を導入。これにより首都圏での外国人住宅取引が前年比で4割減少したとされます。

東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ──4都市の不動産価格は連動している

このように各国が外国人による不動産投資の規制を実施する中、日本は規制に出遅れてしまったため、他国から追い払われた中国人投資家が日本に集まり、大挙して日本の不動産を買いあさることになったのです。

そうは言っても彼らは日本全国で土地を買っているわけではありません。主に投資しているのは東京都心で、港区、千代田区、中央区の都心3区と、あとは渋谷区の一部でしょう。

一時期、中国資本による日本の水源地の買い占めが話題になりましたが、農水省が毎年実施している「外国法人等による森林取得に関する調査」によれば、直近の調査対象となった24年の1年間で「居住地が海外にある外国法人又は外国人と思われる者による森林取得の事例」は48件、171ha。うち香港を除く中国本土によるものは3件しかありません。同年の国内の外資系企業による森林取得の事例(都道府県から報告があったもの)も37件、211haと、全体として増加傾向にはあるものの、さほど大きなものではないことがわかります。

東京都心のマンション価格の高騰も、実際は中国資本だけが理由ではありません。むしろ世界の地価の基準が変わってきた影響が大きいと、個人的には考えています。

今日では世界の先進国の主要都市の中心部、例えばニューヨークのセントラルパークの東側やロンドンのハイドパーク周辺、あるいはパリのシャンゼリゼなど、それぞれの国の代表的な都市の中心部の不動産価格を比較することが行われています。東京もそうした比較対象都市のひとつに数えられているのです。昔はそのようなことはありませんでした。

「ニューヨークやロンドンに比べれば、東京の中心部は安い」となって、都心でも埋め立て地でない、いわゆる山の手の不動産は爆上がりしています。

港区にある私のマンションは2年前に買ったものですが、このところ不動産会社がしょっちゅう「売ってくれ」と言ってきて、そこでつけてくる値段は信じられないほど高くなっています。

これは東京だけではなく、ニューヨークやロンドンでも同じなのです。世界でこの4つの都市が突出して値上がりしているように感じます。

これほど土地の価格が高いところで不動産を買える個人投資家は、世界で見ても100万人もいないでしょう。ごく限られた人たちが投資目的で都心の土地を買い、値段をつり上げているわけで、健全なことではないと私も思います。

規制で、不動産価格の暴騰を止めることはできるのか?

都心の不動産高騰の余波で、東京23区や多摩地区の一部、川崎市北部や横浜市の一部、さいたま市浦和区なども不動産価格が上がっているようです。一方で千葉県や川崎市臨海部はそれほど動いていないようで、利便性より土地のイメージで買われている印象があります。

この状況に対し、25年11月、業界団体である不動産協会は千代田区などからの要請を受けて、投機目的の短期転売を防ぐため「引き渡し前の転売禁止」などを盛り込んだ指針を発表しました。「転売行為が発覚した場合、契約解除や手付金没収を行う」としています。

規制に出遅れてしまった日本政府も、高市政権が外国人による投機目的の不動産購入を規制する法改正について検討中といわれます。外国人による不動産投資への規制については上で見たように海外が先行しており、これから日本でも一定の規制が始まるでしょう。

ただ私自身は、投資によるマンション価格の高騰に対しては、規制を行ってもあまり効果はないと思っています。抜け穴がいくらでもあるからです。外国人による投資を禁じても、日本人の代理を立てれば逃れることは可能です。

そもそも不動産取引は、製造業などとは違い不透明な部分も少なくありません。それも日本だけに限ったことではなく、アメリカのトランプ大統領が恫喝的な交渉を常とするのも、彼が不動産のビジネスマンだったことと関係があると私は見ています。規制にはあまり効果がないというのは、そういう背景があるからです。

(構成=久保田正志)