喫煙ルームが果たしていた“意外な役割”
壁打ちという名前を付けなくても、似たようなコミュニケーションが自然に生まれていた場所があります。それが「喫煙ルーム」でした。
若い方は信じ難いかもしれませんが、30年前なら、オフィスのフロアで普通にタバコを吸う人がたくさんいました。それが次第に喫煙ルームだけに限られるようになり、そこに部署も役職も関係なく、さまざまな人が集まるようになったのです。「うちの会社の重要な決定は、会議室ではなく喫煙ルームで行われている」なんて冗談まで交わされるほどでした。
私も以前は喫煙者でしたが、喫煙ルームが組織の中で貴重なコミュニケーションの場になっていることを実感していました(実は、この価値があまりに大きくて、禁煙を躊躇ったほどです)。
今になって考えると、喫煙ルームは壁打ちに最適な場所だったのです。部署や階層を超えてさまざまな人が集まり、会議室にいるときよりもずっとリラックスして過ごせる。肩書を気にせず、個人として自然に話せる。責任の重さに縛られることもないから、会議室では出てこない自由な発想も出やすい。
「プリンターの配置」で社内の空気は変わる
ただ、時代の流れとともに、喫煙ルームの存在感は小さくなってきました。最近では、「カフェスペース」をオフィスに設ける会社も増えました。これは、かつての喫煙ルームのように、部署や階層を超えた自由な対話を生み出そうという意図が少なからずあるのでしょう。
そもそも「対話」は、予定を組んでわざわざ行うより、たまたま同じ場所に居合わせた人々の間で自然に生まれる方が良いものです。
そのための工夫は、カフェスペースのような特別な場所だけではありません。私が以前勤めていた会社では、誰もが普段使うコピー機やプリンター、リサイクルボックスなどの置き場を、意図的にオフィスの中央に設けていました。
また、営業部門は通常、出入りのしやすさを考えて入口近くに配置されがちです。ところが、この会社ではあえて奥まった場所に置き、外出時にスタッフ部門のエリアを通るような動線を作っていました。
そこで交わされる会話は、「元気?」「行ってらっしゃい」「お帰りなさい」といった、他愛のないものです。それでも、そんな何気ない言葉の積み重ねが、お互いに声をかけやすい関係を作っていくのです。