誰しも「老化」は避けられないが、最新の研究では「好奇心を持つこと」が知的能力の維持に大きな効果を発揮することがわかってきた。国立長寿医療研究センターの西田裕紀子氏に「最期まで自分らしく、幸福に過ごす」方法を聞いた――。

心の持ちよう次第で老化の程度に差が出る

「人生100年時代」とよく聞きますが、事実として寿命は延び続けています。日本人の平均寿命は男性81.1歳、女性87.1歳(2024年、厚生労働省「簡易生命表」より)。1950年には男性が58歳、女性が61.5歳だったことを考えると、その伸び幅は驚異的です。2050年の女性の平均寿命は90歳を超えると見込まれており、100歳以上の高齢者を見かけることは珍しくなくなるでしょう。

【図表】日本人の平均寿命の推移
図版作成=大橋昭一

しかし、老化についてより深い考察をする際には、健康寿命についても注目しなければなりません。健康寿命の定義には様々な考え方がありますが、「日常生活に影響を及ぼすような健康上の問題が生じたとき」までと考えるのが一般的です。21年の健康寿命は、男性72.6歳、女性75.5歳。前出の平均寿命と比較すると、男性で約8.5年、女性で約11.6年の乖離があります。つまり、何かしらの健康問題が生じてから天寿をまっとうするまでに、多くの人は約10年の年月を過ごすことになるのです。

「ピンピンコロリ」などの言葉が流行したこともありましたが、基本的に平均寿命と健康寿命が一致することはありません。だからこそ、健康上の問題が生じても、最期までいかに自分らしく幸せに過ごすか、いわゆる「幸福長寿」がとても重要なのです。

我々、国立長寿医療研究センターでは、老化に関する様々な研究を行っていますが、近年、幸せな加齢のカギとして注目しているのが「好奇心」です。様々なことに興味を持ち続けることは、加齢に伴う心身機能低下を抑制する可能性があります。食生活や運動などのライフスタイル改善ももちろん大切ですが、心の持ちよう次第で老化の程度やスピードに大きな差が出るということが明らかになってきたのです。

そもそも一般的に「老化」とは、身体的・精神的機能が変化する現象のこと。主に生理機能の衰退、外界からのストレスや遺伝的な要因に対し、適応力が低下することを指します。これを「老化」と聞くと、「年齢を重ねるとともに衰えてゆく身体」というネガティブなイメージを持つかもしれません。しかし、老化は英語で「aging(エイジング)」といい、ワインの熟成などにも使われる言葉です。単なる機能低下だけではなく、加齢に伴い成長を続け、成熟していくという意味合いも含まれています。

もちろん誰しも、個人差こそあれ、加齢に伴う身体機能の低下は免れません。しかし、脳を例にとると、知的能力に関わる脳領域の機能が年齢とともに低下すると、脳内の別の領域がそれを補完する形で活動するという研究結果も報告されています。身体機能は衰えても、補う力、さらに、“心理的加齢”にスポットを当てると、むしろ「成長を続ける」という側面が見えてくるのです。

ここで心理的加齢の例として「知能」に注目してみましょう。知能とは、私たちが日々直面する課題や環境に適応する能力であり、「流動性知能」と「結晶性知能」に分類されます。流動性知能は、情報処理能力、法則を発見する能力、新しい課題への対応力などにあたり、若年期に向上、その後は脳の機能低下の影響を受けて低下する傾向があります。一方、結晶性知能は、学習や経験によって後天的に獲得していく能力。言語能力、理解力、洞察力、批評能力、創造力など、人生経験に応じた多彩な能力が挙げられます。この結晶性知能は年齢を重ねるとともに向上し、高齢になっても成熟していきます。

近年では流動性知能を含む多くの知的能力が60代くらいまで維持され、その後低下した場合にも、結晶性知能がサポート的な働きをすることにより、総合的な知能はむしろ成長、成熟するという見方が主流です。脳の機能低下を個人の経験資源などで補完するこうした現象は、専門用語で「認知予備力」という概念によって説明されます。

なぜ好奇心が高いと認知症を発症しにくいか

加齢に伴う変化については、大きな個人差があることもわかっています。つまり同じように年を重ねても、知的能力が低下しにくい人々がいるというわけです。その要因としてまず挙げられるのは、食事や運動習慣といったライフスタイル。DHAを多く含む青魚や、豆類、乳製品など、バラエティ豊かな食材をとることは欠かせません。

また、笑顔で会話でき、少し息が弾む程度の早歩きなどの運動習慣は、記憶と関連する脳領域である海馬の萎縮を抑制することがわかっています。