長く眠るほど実はよく眠れていない
「健康のためには、1日8時間眠りましょう」。私たちは子供の頃から、そう教わってきました。今でもこの言葉を疑いなく信じている人は多いでしょう。確かに、一日4時間を切るような睡眠時間を続けていれば、いずれ深刻な体調不良を招きます。ですが、「8時間眠らなければ健康に悪い」という考え方は、すでに時代遅れなのです。
厚生労働省のデータをもとに分析したところ、ここ8年で日本人の平均睡眠時間は少しずつ長くなっている傾向にあり、特に65歳以上の高齢者では睡眠時間が顕著に増えています。その一方で、平均寿命は短くなっていることをご存じでしょうか。
2021年、22年と2年連続で日本の平均寿命は減少しました。インフルエンザの流行などで、前年より数カ月減少することはそれまでもありましたが、2年連続でマイナスになったのは、調査が始まった1947年以降初めてのことです。2023年にはわずかに持ち直しましたが、長期的な上昇トレンドにブレーキがかかっています。私は平均寿命の低下の背景に、睡眠時間の長時間化が関係していると考えています。
そもそも、日本人の平均睡眠時間は1970年代頃から急激に減少しました。その一方で、日本の平均寿命は戦後、延びてきました。この2つの事実だけでも、「睡眠時間が短いほうが長生きする」という傾向が見えてくるのではないでしょうか。
さらに、国際比較をすると明確になります。OECD加盟国の先進14カ国の中で、平均睡眠時間が最も短いのが日本です。それにもかかわらず、平均寿命は14カ国の中でトップクラスなのです。一方、アメリカは睡眠時間が長く、「8時間以上」の人が多いのですが、平均寿命は78 歳を下回っており、14カ国の中では最下位となっています。もちろん食生活や医療事情の違いはありますが、世界で最も睡眠時間が短い日本人が長生きし、睡眠時間の長いアメリカ人の寿命が短い――この事実は、偶然とは考えにくいのです。
年齢を重ねると誰でも、夜眠る力(睡眠力)は衰えていきます。定年退職を迎え、仕事を離れると、外出や人との交流が減り、日中の活動量が大きく低下するからです。体だけでなく、頭を使う機会も減るため、夜になっても心地よい疲労感がなく眠気がたまりません。長時間睡眠は、日中の活動量が減り、睡眠の質が低下しているサインであり、寿命を縮める可能性を示唆しているのです。
長時間睡眠は認知症リスクも上げる
では、より長生きできる理想の睡眠とはどのようなものなのでしょうか。答えは明快で、睡眠時間を「増やす」のではなく「削る」ことです。
実をいうと、これには時間だけでなくもう一つの重要な要素が関係しています。それが、睡眠の「質」です。
睡眠の重要性は、「何時間」寝たかだけではなく、どれだけ「深く」眠れたかが深くかかわっています。つまり、「量」と「質」という2つの側面があるのです。
では、なぜ睡眠の質が問題なのか、詳しく説明しましょう。人間は睡眠をとることによって、疲れた体を回復させたり、肌の調子を整えたり、弱った内臓の働きや機能を取り戻したりします。なぜ、睡眠時にこのような働きが体に起こるのかというと、睡眠時に「成長ホルモン」が分泌されるからです。成長ホルモンは肌や筋肉、内臓の細胞、そして免疫細胞も修復し、体を内側から整える働きを持っています。紫外線などで傷ついた肌細胞が修復されるのも、このホルモンの働きによるものです。肌細胞が再生されれば肌に張りが出て、免疫細胞が増殖すれば免疫力が強くなります。健康寿命を延ばし、アンチエイジングを目指すうえで、成長ホルモンの分泌は欠かせません。
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