医学と統計を融合し、病気の原因を解明する「疫学」によって、老化のスピードを左右する意外な実態がわかってきた。科学的根拠が示す「寿命を延ばす生活習慣」について、疫学研究の専門家である大平哲也氏に聞いた――。

昼夜逆転でも健康な人がいる理由

習慣1
× 休日に昼まで「寝だめ」をする

皆さんは、「疫学」についてご存じでしょうか。人の病気の原因や予防について、「人の集団」を対象として調査し、解明する「医療×統計の実践的学問」のこと。私は、1963年から60年以上続き、のべ1万人以上の日本人を追跡調査した「CIRCS」という疫学研究に参加しています。そうした大規模な長期の研究の成果で、老化が早い人、遅い人が「どんな毎日を送っていたのか」という実態も判明してきました。最強のエビデンス(科学的根拠)ともいえる疫学に基づいた、「長寿になる生活習慣」をご紹介しましょう。

生活習慣の中で、「喫煙をしない」「飲酒を控える」といった、長寿になる要因はいくつか挙げられるのですが、「1日の過ごし方」という観点でいえば、「規則正しい生活リズム」を保つことが極めて重要だと考えています。

現役世代の多くは朝起きると、会社や官庁などの職場に出勤して、日中に仕事をこなし、夜になると、帰宅して睡眠を取るといった生活を送っているでしょう。とはいえ、中には、夜に活躍する「ナイトワーカー」もいます。警察官や消防官、自衛官、病院の医師や看護師などが代表的な職種ですが、民間企業の中にも、通信業や運輸業、電力会社やガス会社、警備業といった、24時間体制で私たちの生活インフラを支えてくれる業種があります。早朝の製品出荷に備えて、工場や倉庫で夜勤をする人もいるでしょう。

実は、ナイトワーカーでも、「夜に働いて、昼に眠る」という昼夜逆転の生活を「規則正しく」続けている場合、健康への悪影響が少ないことが、日本の疫学研究でわかっています。ところが、問題となるのは公安職の公務員、病院の医師、国際線のパイロットのような「交代制勤務」。「土〜日曜日は当直、月〜火曜日に休んで、水〜木曜日は日勤」といった、「不規則な生活」を送っている人が、健康上の大きな悪影響を受けやすいのです。

交代制勤務は、体力のある人でないとこなせません。したがって、交代制で働いている人を短期間、若い世代について観察すると、健康に関する検査値が平均よりもよいことがあります。しかし、10〜20年のスパンの疫学研究で追跡調査をすると、交代制勤務を続けた場合、平均よりも血圧が上がるといった、寿命を縮める兆候がはっきりと表れるようになるのです。

例えば、女性看護師では、夜勤を長期間続けた人の場合、夜勤経験のない人に比べて「乳がんの発症リスクが大幅に高まる」といった研究報告もありました。原因としては、免疫などを担うホルモンの「メラトニン」や女性ホルモンの「エストロゲン」の分泌が乱れることなどが疑われているのです。

ただし、「昼に働いて、夜に眠る」という一般的な生活を送っている現役世代も、安心してはいけません。実は、「交代制勤務の人」と同じような、ライフスタイルの人がいます。とりわけ、平日は朝早起きなのに、休日は「昼頃まで寝ている」という人は要注意です。

実は、これまでの研究で、週末に1〜2時間程度、睡眠時間を延ばすと、健康にプラスの効果があることが認められています。つまり、寝不足の人なら、健康を回復するのに、「寝だめ」そのものは有効なのです。しかし、肝心なのは寝だめの仕方。いつもは「朝」に起きている人が、休日だけ「昼」に目覚めると、体が疑似的な「時差ボケ」になってしまい、「交代制勤務」の人と同じように、生活のリズムが乱れてしまうわけです。言い換えれば、長寿になりたいのなら、年間を通して1日の生活リズムを一定にすること。そのためには、1日の始まりである「朝起きる時間」を決めておき、平日も、休日もその時間をきちんと守ることが、健康な習慣への第一歩なのです。

「仕事が多忙で、十分な睡眠時間が取れない。休日ぐらいは長く寝て、睡眠不足を補いたい」という人も少なくないでしょう。そうした場合、休日の前日の夜に、「平日よりも1〜2時間前倒し」で、就寝すればいいのです。世間では逆に、「週末だから」と羽目を外し、「夜ふかし」をして遊んだりする現役世代が多いのですが、生活リズムを乱す最悪の行いといえるでしょう。

セロトニン分泌の約15時間後に眠くなる

生活リズムを整えるキーポイントとして、私が朝起きる時間に着目しているのは、ほかにも理由があります。