お金持ちと、そうでない人の違いは何か。富裕層マーケティングを長く手掛ける西田理一郎さんは「その差はスーパーでの買い物を見れば一目瞭然だ。お金持ちは試食コーナーにも立ち寄らないし、値引きシールには惹かれない。“お金に余裕があるから”ではない。価値を置く場所が違うのだ」という――。

「試食コーナーの前」の行動で分かれる

「アスパラのベーコン巻き、いかがですか?」

マネキンの明るい声に誘われ、一般の主婦は立ち止まる。

一口食べた瞬間、頭の中で高速計算が始まる。「美味しい。でも今日の献立は決めてたはず。いや、明日のお弁当に入れればいいか」

――こうして、予定外のアスパラとベーコンが両方、カゴに収まる。店側の完全勝利である。

ショッピングカート
写真=iStock.com/Voyagerix
※写真はイメージです

一方、富裕層はそもそも試食コーナーに立ち寄らない。いや、正確に言えば「立ち寄る時間的余裕を持たない」のだ。

彼らの買い物は極めて効率的で、目的の商品だけを手に取り、レジへ一直線。店前に待たせている車に颯爽と乗り込み運転手がドアを開け乗り込むや否や車を走らせる。試食で献立を変更するなど論外。なぜなら、献立は既に家政婦や専属の料理人と相談済みか、あるいはそもそも自分で買い物をしていないからだ。

この午前10時の試食コーナー前の光景には、階級間の思考様式の違いが凝縮されている。

庶民は「今、目の前にある機会」に反応する。富裕層は「事前に決めた計画」を淡々と実行する。スーパーという民主的空間において、この差は驚くほど鮮明に浮かび上がる。

試食販売が最も効果を発揮する“時間帯”

日本のスーパーマーケットの客層は、時間帯によって劇的に変化する。

午前中に来店する主婦のうち、夕食の献立を決めている人は6割程度(コロナ前は3割程度であったが家食が定着し増加)。だからこそ、前述の試食販売が威力を発揮する。店側の戦略にまんまとハマり、客単価は上昇していく。

スーパーマーケット
写真=iStock.com/Noel Hendrickson
※写真はイメージです

夕方になると状況は一変する。

献立を決めて来店する主婦の比率が増え、買い物同線はより計画的になる。

そして午後7時を過ぎると、共働き世帯の時間に追われた人々が押し寄せ、惣菜コーナーは戦場と化す。「簡単に作れるもの」「すぐ食べられるもの」が飛ぶように売れる。