※本稿は、三枝匡『決定版 閉塞企業を甦らせる』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
なぜか社外にもフルオープンの新事業計画
12月中旬、年1回行われる次年度事業計画の審議が行われた。その会議は「ビジョンプレゼン」と呼ばれ、数日間ぶっ続けで行われる。連日、朝から夕方まで、執行役員やチームリーダーが次々と登壇し、自分の事業の年間計画や将来ビジョンを発表する。大会議室の後方には100席くらいの傍聴席が用意され、一般社員の誰が聞きに来てもいいという、社内オープン制だ。
驚いたことに、この会議は社外にもオープンだった。会社の最高機密であるはずの新事業計画の案をすべて、社外から聞きに来た人に明かして、彼らの会社に持って帰らせるというのだ。社長はそれを「オープン経営だ」と自賛していた。黒岩は強烈な違和感を覚えた。何のメリットが得られるのだろう。社員は事業計画を社内で認めてもらおうと闘っているのに、外部との競争意識を棄てさせるようなことが行われている。逆ではないのか。
この場の発表内容を審議するのは社長以下の取締役と監査役である。執行役員や事業リーダーの次の1年間の任命も、ここで決まる。だから彼らは事業を認めてもらおうと、準備に手間をかけ、緊張して出てくる。
潜在市場ばかりが強調されるプレゼン
黒岩は幾つかのプレゼンを聞いて一つのことに気づいた。なぜか、事業の「潜在市場」がいかに大きいかを誇示する説明が続いた。そのような案が承認されやすいという見方が、社内常識になっているのではないかと黒岩は推定した。それは戦略的に有害な考え方になりかねない。
黒岩はしばらくして、質問の手を挙げた。それまで黙っていた社外取締役が発言を求めたので、会場の社員は「この人、誰だっけ」という顔で、視線を向けた。
「あなたは、狙っている市場が3000億円規模だと言いました。ところで、あなたの事業チームの5年後の売上計画はいくらでしたっけ」

