一緒になって笑っている幼い経営陣たち

会場は大爆笑になった。いくら日本人の戦略意識が弱いと言っても、「米国戦略」と「タコ焼き」を同じ会議で話す会社はないだろう。黒岩なら米国が最優先だ。事業の「戦略優先度」が曖昧にされていることが、このさもないシーンに出ている《感知項11》。

廊下を歩いていてドアが一瞬だけ開き、部屋の中におかしな景色が見えたとき、経営者はどう反応すべきか。今この場では、本来ならトップ経営者は部下の戦略認識が甘いことを指摘し、後ろで傍聴している社員にそれを聞かせる。

会社を戦略志向に染めていくには、その場その場、その一瞬一瞬のトップの指導が勝負だと、黒岩はこれまでの経営者経験で信じてきた。ところがミスミでは、その矛盾を指摘する重要な役割を、社外取締役の黒岩莞太に演じさせている《感知項12》。社長も役員も一緒になって笑っているだけだ。何と幼い経営陣だろうか。

いたずらなビジネスマンのグループ
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黒岩は連日の審議を、すべて聞いた。これは勝ち戦だとワクワクする事業が、ただの一件もない。世間で、この程度のベンチャー提案に投資するプロ投資家は一人も現れないだろう。

日本ベンチャーが米国、中国に勝てないワケ

チマチマしたベンチャーをたくさん立ち上げる発想は、当事者がリスクを分散したいからだ。ベンチャーを手がける人々が素人であれば、自然に「自分の手に負えそうな」ネタを選ぶ。そういうことをすれば、会社として低リスクの事業を組み合わせることになる。プロのベンチャー経営者とは真逆の、日本のサラリーマン特有の発想だ。日本のベンチャーの多くが米国や中国に完全に負けてしまったのは、民も官も合わせて、このチマチマ発想が原因だ。

ベンチャーとは高リスクに挑み、短期間で一気に勝負をする。それがその言葉の意味だ。ベンチャーキャピタルは、厳選した高リスク投資を組み合わせることでリスク分散を図る。

会社改造の要諦6【リスク投資ポートフォリオ】

ファンドの傘下で、投資先の社長に雇われた人は、そのベンチャーだけで生きるか死ぬかの勝負をする。貧弱な経営をすればすぐにクビだ。一方、キャピタリストは「どれかが当たれば、あとは不調でも大丈夫」という「確率論の勝負」をする。ポートフォリオ(投資先の組合せ)全体で高リターンを出せばいいので、一つや二つの投資先が潰れてもいい。

日本企業が社内ベンチャーを始めると、そう呼びながらも、ベンチャーに不可避な揮発性のリスク勝負を避けたがる。チマチマ事業は、素人に合った低リスクのネタだから、すぐに高成長事業にならない。しかしすぐに破綻にもならない。

そのような中途半端なベンチャー投資がなぜ日本企業で認められるのか。理由がある。人が見ればチマチマ、バラバラでも、業績の落ちている会社の中では、あるいはそのような国の中では、それでもマシに見えるのだ。

けれども、一チームあたりの赤字は小さくても、チーム数を増やしていけば、社内ベンチャーの全体赤字額は膨らんでいく。その総額において、やがて耐えがたくなる。これこそが、バラバラ病、チマチマ病、ダラダラ病のベンチャーを推進する会社が、最後に行き着く壁だ《感知項13》。