仕事ができる人の中には、頻繁にサウナへ通う人が数多くいる。なぜこれほどまでにサウナにハマるのか。「サウナドクター」として知られる加藤容崇氏にその理由と医学的根拠を聞いた。

「できる人」こそ必要な心身をリセットする場

一流経営者やビジネスエリートの中には、頻繁にサウナへ通う人が数多くいます。そこには明確な理由があります。精神的にも肉体的にもギリギリの過酷な環境で戦い続けている人ほど、サウナという心身をリセットする場を必要としているからです。

経営やビジネスの第一線では、「どうにもならない瞬間」が必ずやってきます。自分の努力だけでは打開できそうになく、かといってほかによい方法も思いつかない。思わず頭を抱え込んでしまうようなとき、サウナに入ると気持ちが少し軽くなるのです。脳がリセットされて、新鮮な気持ちで問題に向き合うことができるようになります。すると、さっきまでは思いもつかなかったようなアイデアがふっと湧いてくることもある。そんな「救われた体験」が、ビジネスエリートをまたサウナへと誘うのです。

仕事ができる人ほど陥りやすい状態として「アレキシサイミア(感情認識困難)」が挙げられます。これは病気ではないものの、自分の感情や感覚をうまく認識できなくなる状態を指します。心身ともに疲弊しているのに「まだいける」と自分で自分を鼓舞して走り続け、ある日突然、体が動かなくなる。真面目で優秀な人ほど、この落とし穴にはまりやすいとされています。

しかし、サウナは外的情報が遮断され、スマホも持ち込めず、ただ自分の感覚や内面と向き合うほかない空間です。そこで初めて「今、気持ちが落ちているな」「休養が必要だな」と自分の状態を冷静に認識できるようになります。思考が過去の失敗や未来への不安でいっぱいになり脳が迷走する「マインドワンダリング」から抜け出し、感情や状態が整理されて「今、この瞬間」にフォーカスされる「マインドフルネス」に近づくのです。

しかも、サウナの効用はこうした精神面のみにとどまりません。血流改善による肌つやの向上や、肩こり・腰痛、眼精疲労の緩和、さらには睡眠の質の向上、血圧の低下など、ビジネスパーソンにとって無視できないメリットは多岐にわたります。

非日常的な危機的状況で自律神経がフル稼働する

なぜサウナによって心身のコンディションが整うのでしょうか。簡単にいえば、サウナとは人体にとって「非日常的な危機的状況」そのものだからです。サウナでは、猛烈に暑いサウナ室、キンと冷えた水風呂、そして穏やかな外気浴を繰り返します。短時間のうちに次々と起きる極端な環境変化に、私たちの自律神経と血流は適応しようとフル稼働を始めます。

注目すべきは自律神経に与える影響です。サウナに入ると、まずは交感神経がほどよく高まります。その後、外気浴によって「危機を脱した」と判断した体は、その反動で一気に副交感神経を優位にします。このとき、血中には交感神経由来のアドレナリンが残っているため、「リラックスはしているが、意識は清明に晴れている」という特殊な状態が生まれます。これこそが、サウナ愛好家たちが口にする「ととのう」の正体です。

【図表】「ととのう」メカニズム

その結果として得られる最大のメリットが「脳疲労」の解消です。私たちの脳が疲れる大きな原因は、ボーっとしているときでも勝手に働き続ける「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という回路にあります。脳の消費エネルギーは、仕事で脳を能動的に使っている状態でも5%程度しか増えないのですが、DMNによる消耗は実に70〜80%に上ります。抱えるプロジェクトの懸念事項や、やらなければいけないタスクが常に頭の中を駆け巡り、脳の容量を消費しているのです。

ところが、サウナの中に身を置くと、脳は過酷な環境への適応に追われ、それ以外の思考は強制的に停止させられます。結果、脳のエネルギー消費量が大きく減り、スッキリとした感覚が得られるのです。

細胞レベルでの修復も見逃せません。サウナによって私たちの体内では「ヒート・ショック・プロテイン(HSP)」という物質が発現します。熱による刺激によって活性化される特殊なたんぱく質で、細胞内の損傷したたんぱく質を修復する鋳型のような働きを持っています。HSPは、日常生活で受ける紫外線ダメージの修復をはじめ、免疫力の向上、美肌効果など、多大な恩恵を私たちにもたらしてくれます。

(構成=島津健吾)