もう日本企業は世界で勝てないのか?
かつて、「メーカー」になれるのは、巨額の資本と設備を持つ大企業だけだった。しかし今、その常識が音を立てて崩れ去ろうとしている。
この劇的な地殻変動を、ハードウェアの聖地・中国深圳の“ド真ん中”から捉える人物がいる。Alibaba(アリババ)、Tencent(テンセント)、Baidu(バイドゥ)などテック界の巨人らがこぞって支援する中国最大級のオープンソース連合「開源社(KaiYuanShe)」。そこに、たった一人の「国際メンバー」として迎え入れられた日本人、高須正和氏(51)だ。
技術戦略の羅針盤となる「中国オープンソース年度報告」の発行やガバナンスの策定を担うこの組織は、中国テック業界における「精神的支柱」ともいえる絶大な権威を持つ。その中で高須氏は、現地の貢献者に贈られる賞を2年連続で受賞。「中国のイノベーション現場で、今最も信頼されている日本人」といっても過言ではない。
スイッチサイエンス社の国際担当や早稲田大学ビジネススクール非常勤講師を務め、世界中のエンジニアコミュニティと連携している高須氏は、最前線で目撃した世界の潮流について、こう語る。
「昭和の時代、製品企画やマーケティングは『選ばれた人』の仕事でした。しかし今は、新卒でもゼロから企画し、制作に関わるのが当たり前の時代。世界全体で見れば、数万人しかいなかった『ハードウェアのつくり手』が、現在は数十万人に増えている。将来的には新たな企業が増えるにつれ、桁違いに増えていくはずです」
目の前で起きている変化は、単なる技術トレンドの話ではない。ビジネスのルール、個人のキャリア、そして日本経済の立ち位置すらも根底から覆す、まさに「地殻変動」である。なぜ今、「つくり手」が激増しているのか。そしてAIが加速させるこの変化の中で、私たちはどうすれば生き残れるのか。高須氏へのインタビューから、その変化の本質を紐解いていく。
「買う人」ではなく「つくる人」が激増している
2026年1月9日、米ラスベガス。「CES 2026」の会場で高須氏は看板を示し、こう語った。
「かつてここは『コンシューマー・エレクトロニクス・ショー』、つまり家電の見本市でした。でも今は、会場のどこを見ても、単なる『消費者のための家電』は主役ではありません。みんながここで見ているのは、『これがあると人間の能力が上がる』という道具ばかりです」
展示の話題の中心は、NVIDIAが提示した「アイデアから実装まで数分で移行できる」という次世代のAI開発環境や、工場や介護の現場で滑らかに動くヒューマノイド(人型ロボット)たちだ。その姿は、AIが画面の中に閉じ込められた存在ではなく、質量を持った「フィジカルAI」として現実世界を動かし始めていることを如実に表していた。同時にCESのターゲットが、消費する側(Consumer)から、創り出す側(Creator)へとシフトしている現状をはっきりと映し出していた。
なぜ「つくり手へのシフト」が加速しているのか。その正体は、開発プロセスの劇的な短縮にある。NVIDIAがAIの実装時間を「数分」に縮めたように、ハードウェアの世界でも、かつて数年かかった製品化のプロセスを「数カ月」に圧縮するプレイヤーが現れている。


