日本人の「海外離れ」が止まらない。城西国際大学の佐滝剛弘さんは「円安や物価高の影響で、海外旅行にはこれまで以上に経済的な余裕が必要になった。ずっと海外に行かないと、渡航意欲が湧かなくなり、パスポートも取らなくなるという悪循環が生まれる。これは観光立国を目指す日本として適切ではない」という――。

※本稿は、佐滝剛弘『観光消滅 観光立国の実像と虚像』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

日本のパスポート
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観光学部の「海外研修」が中止に

2023年度、筆者が所属する大学の観光学部では4種類の「海外研修」の授業が用意されていた。それぞれ、韓国、台湾、珠江デルタ(中国広東省、香港、マカオ)、ハワイでの研修である。

しかし、授業として成立したのは韓国だけであった。他は学生が最低履修人員に満たなかったのである。約3年間、高校時代も含め、現在の大学生は海外へ渡航する機会をコロナ禍で奪われた。海外研修や海外留学はそうした学生に対しても、本学部のカリキュラム上売りの授業である。当然、渡航を我慢していた学生が我も我もと履修してくれるはずだと思っていた。しかし、蓋を開けてみると実際は全く違っていた。

自分のゼミ生を中心に、学生たちにそのあたりの事情を詳しく聞いてみた。まず多いのが、渡航費用の問題である。学生の多くは自分の学費や生活費の一部、もしくはかなりの部分をアルバイトで賄っている。奨学金を得ている学生も少なくない。彼らにとって、本当は行ってみたい海外研修の費用は予算オーバーなのである。

「お金がない」以上に「そもそも海外に行きたくない」

2022年度のハワイ研修はなんとかぎりぎりで催行できたが、参加希望者が少なかったため、1人当たりの負担が増し、その費用は60万円あまりだったと聞いている。学生にとって、親を頼ったとしても出費をためらってしまう価格であろう。しかも2023年ごろから顕著になった物価上昇の影響が大きく、国内旅行すら躊躇するという学生も多い。

もう一つの理由は、もっと深刻だ。「海外に行きたいとは思わない」という声である。大学名に「国際」を冠し、いまや最大のグローバル産業ともいえる「観光」学部に入学して、海外に行きたくないとすれば、いったい何を学ぶのだろう?

このあたりの事情を聞いてみると、コロナ禍により、高校時代に経験できるはずだった海外への修学旅行などが軒並み中止になり、渡航のきっかけを失ってしまったという声が多い。また、経験がないと、パスポートの取得や航空チケットやホテルの予約、現地での移動手段などにも不安が募る。

そもそも外国語が流暢とは言えない学生にとって、言葉の壁も立ちはだかる。旅慣れてしまえば、現地語が話せなくても何とかなるというノウハウを身につけられるはずだが、経験がないと不安になるのは無理からぬところではある。