老後の暮らしを脅かすものは何か。ファイナンシャルプランナーの長尾義弘さんは「年齢を重ねると、それまで当たり前にできていた日常の動作が思わぬ負担になることがある。小さな困りごとが、転倒や孤立、健康悪化の入り口になることもあるため、地域の支援などを把握しておく必要がある」という――。(第5回)

※本稿は、長尾義弘『老後不安は「思い込み」が9割』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

ゴミが積まれた台所
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老後は「ゴミ出し」さえも命がけ

私は、朝6時30分に開店するスターバックスに行って仕事をするのが日課です。ある日、いつものように6時すぎに自転車で向かっていると、小さな声で「助けてください」という声が聞こえました。気のせいかなと思いつつも、引き返してみると、都営住宅の階段のところでおばあさんが座り込んでいました。

「大丈夫ですか?」と声をかけると、腰を圧迫骨折していて、松葉杖をつきながらゴミ出しに来たものの、転んで起き上がれなくなったとのこと。「救急車を呼びましょうか?」と聞くと、「それは大丈夫」と言います。意識もしっかりしていて外傷もなさそうでした。3階に住んでいるから部屋に戻りたい、と。

(えっ、松葉杖でゴミ袋を持って3階から降りてきたのか……)そう思いながら、とにかく抱きかかえて立たせ、ゆっくりゆっくり階段を上がりました。なんとか玄関まで送り届けると、本当にホッとした表情をしていました。

きれいに片付いた部屋だったので、おそらくひとり暮らしでしょう。そのあと、おばあさんが途中まで持ってきたゴミ袋を代わりにゴミ置き場まで運び、私はスターバックスへ向かいました。

後日、その方の息子さんがお礼に来てくれました。ちなみに私はというと、無理な体勢で抱き起こしたせいか、足首をひねって1週間ほど痛い思いをしました(苦笑)。この出来事で痛感したのは、ゴミ出しは高齢者にとって“命がけ”になりかねない、ということです。

ゴミ出しする主婦
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「今日はいいか」が自己放任に繋がる

普段は普通に歩けていても、重いゴミ袋を持つとバランスを崩しやすい。さらに階段の上り下りは、想像以上に危険です。階段には手すりがあっても、踊り場にはなかったりします。坂道があればなおさら。雪の日などは、転倒リスクが一気に高まります。

そして、ゴミ出しがつらくなると、今度は別の問題が出てきます。

「今日はいいか」と出さずにいるうちに、家の中にゴミがたまる。不衛生な環境になります。これが進むと、いわゆる“ゴミ屋敷”状態になってしまうこともあります。高齢になると、本来なら日常的にできていたことが、だんだんできなくなる。食事をとらない。お風呂に入らない。洗濯をしない。掃除をしない。ゴミを出さない。

「セルフ・ネグレクト(自己放任)」状態です。こうした状態が続くと、心身の健康が脅かされ、孤立が深まります。悪循環です。

じつは、支援制度も少しずつ広がっています。令和2年度の環境省の全国地方公共団体向けアンケート調査では、地方公共団体の34.8%が、高齢者向けのゴミ出し支援制度を導入しています。たとえば世田谷区では、玄関先までゴミを回収に来てくれる仕組みがあります。