「インバウンドへのおもてなし」は大丈夫か

もちろん、ITやインターネットの発達で、自宅に居ながらにして海外の観光地の動画も見られるし、実践的な英語学習もオンラインなどで可能だ。しかし、現地に赴いて直接海外の雰囲気や空気に触れ、対面で外国人とコミュニケーションを取るのは、きわめて貴重かつ重要な体験のはずである。そうした体験が乏しいと、海外からの観光客を迎える際に、どんなサービスや受け入れをしたらいいのか想像力を働かせにくい。

自分が海外に出向いて便利だと思ったり苦労したりした経験は、「観光立国」を標榜するこの国でインバウンドを受け入れる際に大きく役に立つ。自分たちも海外に積極的に出かけて様々な経験をした人が、逆に海外の人を受け入れるときにその体験を活かせる。もし、一方通行になってしまえば、「インバウンドへのおもてなし」は果たして大丈夫なのだろうか?

ただし、念のため申し添えておくと、本学部の他の海外プログラムには、多くはないが一定の参加者はあった。2024年度の海外研修も、実施できる授業は増えている。

両親の介護、ペット…若者の海外離れの理由はさまざま

若者の海外離れについては、他にも様々な理由が語られており、それらが複合的に絡み合っている。円高と昭和バブルの時代には、海外旅行はぐっと身近に感じられ、行き先や購入したブランド品を競い合った。一方、若者の貧乏旅行、例えばアジアやヨーロッパの「放浪」も憧れのスタイルだった。

作家沢木耕太郎氏の『深夜特急』(1986~1992年)は、一部の学生のバイブル的存在だったし、海外ガイドブックの定番『地球の歩き方』の“はしり”のころ(1979年創刊)には、そこに自分の体験を投稿し、掲載されることがある種のステータスでもあった。

こうした学生時代を過ごし、経済的に余裕があり、子育ても一段落した50~60代は、今度は両親などの介護で海外には出られないという声も周囲から聞かれる。中にはペットの介護で身動きができないケースもある。

経済的な理由に加えて、自由に海外に行くにはいくつものハードルがあるのが現在の日本の状況である。なお、円安によって海外渡航を断念せざるを得ないケースは、高校の修学旅行にも及んでいる。2019年度に7校の公立高校が海外に出かけた群馬県では、2024年度は1校しか海外へ行かないと報道されている(2024年5月23日、毎日新聞のウェブ記事)。