なぜ斎藤元彦氏は「圧勝」したのか

兵庫県知事選、パワハラでの局長自死疑惑などの責任を問われて自ら辞職したはずの前知事・斎藤元彦さんの再選という結果で終わりました。

この選挙結果は驚きをもって迎えられ、報道各社出口調査では40代以下の勤労層・若者層が地滑り的に斎藤元彦さんを支持・投票した格好になっています。他方、10月31日の告示前の情勢調査では野党・立憲民主党系の稲村和美さんは盤石な体制と見られたものの選挙戦序盤から伸び悩んだ挙げ句に最後は斎藤さんに完全にひっくり返され、及びませんでした。

選挙後の評論では、特に「新聞を読まずテレビを観ない層が、選挙関連の情報をSNSに依存するようになり、既存メディアの衰退が大敗の原因となった」ことや「Youtubeなどオンラインで影響力を持つ「NHKから国民を守る党」の立花孝志さんが実質的に斎藤さんの応援に回り、選挙期間中に誤情報を流して有権者の多くを惑わせた」などの勝因分析が出てきています。

兵庫県知事選挙が告示され、第一声を上げる政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏=2024年10月31日、神戸市中央区
写真=時事通信フォト
兵庫県知事選挙が告示され、第一声を上げる政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏=2024年10月31日、神戸市中央区

民主主義の根幹である選挙のおかれる環境が、メディアシフトとともに大きく変遷している端境期にあるのではないかとの見解も大勢を占める中、選挙とネット、憲法とプラットフォーム規制の動きについてどう考えるべきか――。兵庫県知事選投開票直後に行われたイベント「JILISコロキウム」で、わが国の憲法学の最前線を走る京都大学・曽我部真裕教授と新潟大学・鈴木正朝教授、弁護士・板倉陽一郎先生に聞きました。

「表現の自由」と「民主主義の危機」

曽我部教授は「読売新聞の調査によれば、SNSや動画投稿サイトを参考にした有権者の9割が斎藤氏を支持していた」として、兵庫県知事選は「選挙民の分断は、主に選挙に関する情報を『どこから入手していたか』がそもそも若い人と中高年では異なっている以上、旧来型の新聞やテレビでは有権者に情報が届けられていないことは明らか」と総括しています。

そこには、確かに若い世代が読まなくなった新聞や観なくなったテレビから一転、TikTokやYouTubeで流れてくる選挙情報を信頼して投票行動を起こした背景が明確になっている一方、曽我部教授からは「投票行動において、地方選挙では必ずしも有権者は政策や候補者について十分な知識もなく選挙に『なんとなく』行かされる」問題も指摘。

特に、地方選挙は「一定の行政は地方公務員によって行われるため、誰が勝っても身近な問題の解決があるとは肌で感じられない」(曽我部教授)、「地域のコミュニケーションを支える家族や血縁、職場などでの政治の話題が忌避され、有権者全体の選挙、政策、候補者に対するコモンセンス(投票の前提となる共通認識)が喪失している」(鈴木教授)可能性も示唆されました。

また、有権者が特定の政党や政治家を投票する動機と、それを支える知名度・浸透の問題は重要で、公職選挙がマーケティングの対象となり、ナラティブ(物語性)が党派性を置き換え組織票や地域票だけでは勝てる選挙ばかりではなくなってきた状況が示されています。