欧州で広まり始めた「デジタル立憲主義」とは

このような好ましからざる状況に対し、新たな規範的枠組みとして注目されているのが「デジタル立憲主義」的アプローチです。欧州で新しい潮流になっているデジタル立憲主義は、デジタルプラットフォームの影響力を踏まえ、情報空間の健全性確保に向けた新たなルール作りを目指す考え方。プラットフォーム事業者が国民に対して引き起こす違憲な社会情勢に対して、国家はプラットフォーム事業者を規制し、しかるべき国民の権利と利益を守る必要があるとするものです。

従来の「思想・言論の自由市場」論は、投票日という刻限が決まっている投票行動では特に、情報空間では必ずしも機能しません。誤情報や偽情報が瞬時に拡散され、個人がその真偽を判断することは極めて困難だからです。

「世の中が専門的すぎて、民主主義と言っても有権者は政策にも政治家にも素人すぎる中、短期間で誰がいいかを見極めて投票するのは現代では不可能になっている」(板倉先生)

JILISコロキウムの様子
筆者提供

情報にも「栄養バランス」が必要という考え方

昨今、慶應義塾大学の山本龍彦教授や東京大学の鳥海不二夫教授が提唱している「情報的健康」という概念にも注目が集まっています。比喩として、食生活における栄養バランスのように、情報摂取においても適切なバランスが必要だという考え方です。

「ただし、情報の偏りは生命に直結するわけではないため、国家や行政、あるいは新聞社、NHKなどがこのようなテーマで国民の情報摂取に対しどこまでの介入が正当化されるかについては、慎重な検討が必要となる」(曽我部教授)

一方で、公共放送であり実質的に税金にも近い国民からの放送受信料で運営されているNHKの役割を堅持して、通信会社などとともに選挙や災害時に国民の知る権利を担保することもまた模索されることになるかもしれません。