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ベテラン校正者が指摘した「日本語の大問題」
「漢字があるから校正作業もあるんです」
きっぱりと言い切ったのはベテラン校正者の小駒勝美さんだ。彼は新潮社校閲部を定年退職し、フリーの校正者として活動する傍ら、通信教育の校正講座(実務教育研究所)の講師などもつとめている。
―─漢字がないところには校正もない、ということですか?
私がたずねると、小駒さんは「そうです」とうなずいた。
「英語圏などでは文字や記号が単純なので、字形の問題もありません。校正といっても印刷工の副次的な作業なんです。私たちは漢字を使っているから、出てくる問題点がいっぱいある。漢字の字形の問題もあるし、送り仮名、それからルビの問題。ルビなんて誤植の宝庫ですからね」
確かに英語のアルファベットは26文字しかない。日本語にはひらがな、カタカナに加えて漢字(『大漢和辞典 修訂第二版』[大修館書店 1989~1990年]には親字約5万字が収録されている)があり、時として英語のアルファベットなどを文中に使う。文字種だけでも比較にならないのだ。
漢字ゆえの校正。まるで漢字が校正を生んだかのようで、漢字の中でも「わざはひ(災い)」(『校正の硏究』大阪每日新聞社校正部編 昭和4年 以下同)とされるのは誤字である。誤字の訂正こそが「校正本來の職務または目的」であり、「つねに警戒してこれを摘發し、見落すことのないやうにせねばならない」と念を押されているのだ。
漢和辞典で「誤字」を調べてみると…
誤字を摘発するには、まず「誤字」とは何かを知らねばならない。そこであらためて漢和辞典で「誤字」を調べてみると、こう語釈されていた。
異体字の一種。
(『角川 大字源』角川書店 1992年 以下同)
誤字はただの「誤った字」ではなかった。それは「異体字」のひとつ。「本来、その使用は望ましくないが、通用してしまっているもの」らしいのだ。
いわゆる慣用ということで、一体、誰にとって望ましくないのか。
疑問を覚えた私は早速、同書の凡例を確認した。すると「異体字」とは「親字と同音同義に用いられる漢字」と定義されている。「親字」とは辞典の見出しになっている字で、同書の場合は内閣が告示した「常用漢字」や「教育用漢字」「人名用漢字」、そして「和漢の古典の読解に必要な多くの漢字・国字」から構成されている。それらの親字と同じ読み、同じ意味で使われるが、字体の異なる字を異体字と呼ぶらしい。一般的に異体字は次のように分類される。
・古字
・別体字
・誤字
・本字