※本稿は、矢野香『世界のトップリーダーが話す1分前までに行っていること』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
トヨタ社長はなぜ最初に感謝を述べるのか
人前に出たら最初に「これさえ話せばうまくいく」という言語スキルについてご紹介しましょう。
言語スキル① 好意の返報性 感謝を伝える
世界のトップリーダーの最初の一言は、「感謝」から始まることが多いのが特徴です。例として2023年のTOYOTA豊田章男社長(当時)の「年頭あいさつ」を見てみましょう。
およそ500人の従業員が出席。会場に入りきれないメンバーにはリモートで届けられた新年仕事初めでのメッセージです。
冒頭で「あけましておめでとうございます」という挨拶をしたあと、昨年1年を振り返り次のように語りました。
「トヨタで働く皆さんの努力に改めて感謝申し上げます。ありがとうございます。そして、私たちのクルマをお選びいただき、お待ちいただいている世界中のお客様、お客様との絆をつないでいただいている販売店の皆様、日々の生産変動にご尽力いただいている仕入先、輸送現場の皆様、日本の自動車産業をお支えいただいている550万人のすべての皆様に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございます」
お願いを聞き入れてもらいやすくなる
このように従業員だけでなく550万人の方々への感謝という、まさに世界のトップリーダーらしいスケールの大きな感謝を伝えました。
なぜ最初に感謝の言葉を口にするのでしょうか。その効果を心理学的に分析すると、社会心理学者のアルヴィン・グールドナーが提唱した「互恵規範」の効果です。試食をしてしまったあと、つい買ってしまうのもこの効果によるものです。
このように、最初に話し手から「感謝」という好意を受け取った聞き手は、「同じ量の好意を返さなければ」と感じながら話を聞くことになります。結果、話の最終的な目的として行動変容や依頼をする場合は、その内容を受け入れてもらいやすくなります。
「感謝申し上げます。ありがとうございます」「いつもありがとうございます」聞き手に行動を促す伝え方をするために、まずはこのような感謝の言葉から話し始めましょう。