※本稿は、マット・エイブラハムズ『Think Fast, Talk Smart』(翔泳社)の一部を再編集したものです。
質疑応答はピンチではなく「チャンス」であるワケ
前もって準備したプレゼンを見事に披露すれば、それで一つの山場を越えたことになります。しかし、その後に続く質疑応答での突発的なやり取りには、どう対応できるでしょうか。会議や面接で思いがけない質問が飛んできたら、どうすれば良いでしょうか。
質問が浴びせられた瞬間、攻撃された気分になり、少しでも言い間違えれば信用を失うと恐れる人は多いに違いありません。
質疑応答を聴衆との「ドッジボール」ではなく、「対話」と捉え直せれば、相手とのやり取りの中でテーマをさらに広げていく機会をつかめます。主導権を明け渡すことなく、話の流れをコントロールし続けられます。
「質疑応答はチャンスだ」と言うと、大げさに聞こえるかもしれません。しかし、事前に発言を準備したプレゼンや会議では得られないプラスの効果がいくつもあります。
第一に、ごまかしのない自然体と誠実さを印象付けられます。カンペを手放した話し手からは、本当の人柄がにじみ出ます。無理に作った自分ではない方が、聞く側との信頼関係が深まり、親しみやすさと温かみを感じてもらえます。
聞き手一人ひとりを個人として尊重したやり取りを通じ、相手の考えや立場について得られる情報も多くなります。
質疑応答セッションでは、自分の考えをさらに明確化し、プレゼンで伝えきれなかった部分にまで踏み込むことが可能です。臨機応変に受け答えできれば、造詣の深さが示され、信用を失うどころか、いっそう人望を集められます。
質問への答え方をマスターすれば、聴衆の関心を引きつけ、自分の意見をはっきりさせながら、人間味のある形で伝えるという効果が得られます。
質問には「こ」「れ」「か」で答える
次に挙げる「これか」で話すと、質疑応答が聞き手にとって意義深くなります。
れ=例 次に、答えを裏付ける具体例を挙げる
か=価値 最後に、自分の答えが質問者に提供する価値を説明する
順番は入れ替えても構いません。「答え」「例」「価値」という3つの要素だけで、優れた回答が出来上がります。
例示は特に重要です。聞く側にとっては、漠然とした話より、具体性のある話の方が覚えやすいものです。具体的なエピソードを交えることで、あなたの答えが相手の記憶に残りやすくなります。聞き手にとっての価値や意義を説明すれば、身に迫るように伝わり、より強い関心を引き出せます。
私が「これか」にどれだけ信頼を置いているかと言えば、企業の採用担当者だった時、面接に来た候補者たちに伝授したほどです。
面接の冒頭で「質問を受けたら答えを返し、具体的な説明で裏付け、その回答がどのような意味を持つか(この職を得た時にどう生かせるか)を教えてください」と指示しました。
すると見事な効果が表れました。返答がよりクリアになったうえ、型が決まっていることで候補者側の緊張もいくらか解けた様子でした。私にとっては、どの候補者が採用にふさわしいかを見極めやすくなりました。では「これか」のステップを一つずつ追ってみましょう。