認知症の進行が速い人と遅い人は、どこが違うのか。「攻めのリハビリテーション」を掲げるねりま健育会病院の酒向正春院長は「高齢になると視力が落ちてくるが、視力が落ちても認知症にはあまり関係がない」という。認知症患者にみられる共通点を、ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。(第3回/全4回)
年配の男性が居間を歩くのを手伝う看護師
写真=iStock.com/miniseries
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リハビリ医の「本当の使命」とは

リハビリ医として名高い酒向正春先生。ねりま健育会病院の院長と介護老人保健施設ライフサポねりの管理者をやっている。

酒向先生はこう言った。

「人生100年時代です。ただし、100年まで生きても、そのうち寝たきりが30年では意味がない。健康でしかも仕事をして生きていくのが理想です。

リハビリ医といえば、認知症や脳卒中など頭や体が自由にならなくなった人を治す医師と思われています。しかし、本当の使命は頭や体が壊れないように認知症や脳卒中のリスクを可能な限り抑えること。認知症にならないような生活習慣、考え方をみなさんに伝えることなんです」

この連載では先生が言ったように、認知症リスクを抑える生活の仕方を描いている。
第1回は健康な一日の過ごし方と入浴によるストレスの軽減についてだった。2回目は食生活と認知症の関係についてだ。

コミュニケーションが認知症リスクを抑える

そして、今回はコミュニケーションの大切さについて、先生の話を聞いた。

「認知症にならないようにするためには『楽しい』『気持ちいい』という日々を過ごすことです。そのためには周囲の人たちとコミュニケーションをとり、ワクワクすることが重要。

定年退職すると、毎日、自宅にいて孤立する人がいます。それは危険です。何か仕事をすることでもいいし、地域の集まりに出かけるのもいい。定期的に人と会うことです」

コミュニケーションの基礎となるのが聴力だ。人の話が聞こえなくなると、会うのが億劫になる。ひいては孤立してしまう。聴力の低下に気づいたら、すぐに処置をすることが必要だ。

「認知症になりやすい人、どういった環境で過ごしているかといったことはすでにわかっています。そこで重要になってくるのが聴力です。

年をとると難聴になる人が出てきますが、難聴の人は認知症になりやすい。難聴になると入ってくる情報量が圧倒的に少なくなるので、そこが問題なんです。難聴はそのままにしておいてはいけません。機能のいい集音器、補聴器がありますから、ためらわずに使うことです」