「可愛い患者」を目指す
第1回に記したが九州大学による2022年の推計で、認知症と軽度認知障害(MCI)の患者数は合わせて約1000万人だ。(認知症を患っている人が約443万人で認知症予備軍とされるMCIの患者数が約558万人)
そして、この数は年々、増えていく。認知症になるのは嫌だけれど、それでもなってしまうことがある。
もし、自分が認知症患者になったら、どうすればいいのか。認知症になってしまったら、自分の意思をコントロールすることはできなくなるのだろうか。
酒向先生は「いや、そんなことはありません」と言った。
「認知症の患者さんはふたつに分かれます。怒りっぽくなる人と逆にかわいい認知症の患者さんです。認知症の治療法って決まっています。しかし、認知症は治らない。よくなることはなく、悪くなりにくくする治療法です。
誤解を受けやすいのですがね、僕の認知症の治療法というのは、怖い認知症のおじいちゃんおばあちゃんを、かわいいおじいちゃんおばあちゃんに変えてあげること。
怒ったり、大声を出したり、看護師に嫌がらせをしようとするような患者さんを変えることなんです。
赤ちゃんとおじいちゃんおばあちゃんを比べてみてください。赤ちゃんは泣きますけれど、見ていて、愛らしい。親切にしたくなります。おじいちゃん、おばあちゃんもにこにこしていて可愛い認知症でいれば周りも親切にするんです」
怒りっぽい人は、一生懸命な人
「それが嫌われるおじいちゃん、おばあちゃんになったら、われわれも大変ですし、家族も困ります。怒る程度がひどくなり、暴力を振るうような患者さんだと介護事務所からも見放されて、介護事業所へも入れなくなります。
前頭側頭型認知症というのがあるのですが、その患者さんは怒りっぽくなるんです。元々、怒りっぽい人って、前頭葉が萎縮しているケースが多いんですね。そして、前頭葉が萎縮していない人でも性格として怒りっぽい人はいます。
実は私も怒りっぽい部類ですけれど、毎日、我慢しています。怒りっぽい人はいつも一生懸命なんです。真面目で一生懸命だからついつい怒ってしまう。
では、怒る患者さんをどう変えていくかといえば薬を使用します。よく使われているのが漢方薬の抑肝散です。高齢女性に対しては桃核承気湯も使います。いずれもイライラをなくす漢方薬です。さらにひどい症状の患者さんには向精神薬を少量から処方します。これは暴力など迷惑行為に訴える患者さんですね」