リーダーシップがある人は何が違うのか。長崎大学准教授の矢野香さんは「どうすれば相手にメッセージが伝わるか話し方を考え入念に準備している。それは、ユニクロの柳井氏のスピーチを聞くとよくわかる」という――。(第3回)
柳井正会長兼社長
写真提供=共同通信社
ファーストリテイリングの決算発表記者会見で、笑顔を見せる柳井正会長兼社長=2023年10月12日午後、東京都港区

ユニクロ柳井氏のリーダーシップの秘密

2024年10月、ユニクロを展開するファーストリテイリングの2024年8月期決算は、売り上げ3兆円を超え営業利益も5000億円を超える過去最高となりました。広島市にユニクロ1号店を開店してから、ちょうど40年。世界的なアパレル企業に成長させた柳井正会長兼社長のリーダーシップの秘密は何か。本稿では、「話し方」の視点から考えます。

柳井正氏の「話し方」。

そう聞いて、登壇している場面や話し方をすぐに思い浮かべることができるでしょうか。なかなかイメージがわかない、という方も多いかもしれません。

それは無理もないことで、柳井氏は講演依頼を断ることが多いと言われています。

ユニクロについて記したノンフィクションによると、実は彼は「生まれ持ってのどもり症」であるといいます。「紙に書かれた文章を読み上げようとすると不思議とすぐに言葉に詰まってしまう」とのこと。「柳井のどもりは、実は今も残っている。講演などで原稿を用意して話す時に突然言いよどみ、同じ言葉を繰り返す事が度々だ」と記されています(『ユニクロ』杉本貴司、日経BP、2024年)。

弱点を逆手にとる

吃音(どもり)などの発話障害を克服して世界的リーダーになった人物は他にもいます。例えば、「言葉で国民を鼓舞する政治家」といわれた元英国首相、ウィンストン・チャーチル。「世界のCEOが選ぶもっとも尊敬するリーダー」(2013年PwC Japan調べ)にも選ばれた、世界のトップリーダーです。

吃音を持っていたともいわれる彼は、人前ではまったくその片鱗を見せませんでした。彼は議会の何日も前から想定される野次への切り返しや受け流しなどの練習をしていたといわれています。連日の練習があってこそ、原稿なしで堂々としゃべっているように見えたのです。

では、同じように柳井氏も練習によって「生まれ持ってのどもり症」を克服したのでしょうか。これは私の推測でしかありませんが、柳井氏の話し方の特徴を分析すると練習によって修正したというよりは、その弱点を逆手にとってうまく活用しているように見えます。その特徴は、短い一文を一息でいいきることです。

2024年3月に行われたファーストリテイリング入社式における柳井氏の新入社員にむけたメッセージをみてみましょう。