年収1億円を超える富裕層の多くは、ヴィトンもエルメスも「なぜその値段なのか」を説明できる。しかしシャンパンとなると、意外に「なんとなく高級」で止まっている人が多い。あなたはどうだろうか。富裕層マーケティングを長く手掛ける西田理一郎さんが、200年以上変わらないシャンパーニュの「価格支配の方程式」を解説する――。
ピラミッド型に積み上げられたシャンパングラス
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歌舞伎町が象徴するシャンパン大国日本

「とりあえずシャンパンで!」。日本の女性たちがレストランで発するこの一言に、フランスのワイン生産者たちは複雑な表情を浮かべているに違いない。なにしろ日本は、シャンパーニュの輸出先として世界第3位の巨大市場である。年間1600万本以上がこの島国に届けられている。しかしその「使い方」を知ったら、シャンパーニュ地方の修道士たちは墓の下で泡を吹くだろう。

まず、日本が世界に誇る珍妙な発明品について触れなければならない。シャンパンタワーである。クープ型のグラスをピラミッド状に積み上げ、最上段からシャンパーニュを注ぐ。黄金の液体が滝のように流れ落ちる。歌舞伎町のホストクラブでは、この「儀式」に100万円から、ときに5000万円を超える金額が動く。グラスの段数は7段、10段と積み上がり、専門の職人まで存在する。累計で十数万基が建立されてきたという。もはやこれは建築業である。

だが、歌舞伎町で5000万円が動くこの「狂気」の背後には、シャンパーニュが200年以上かけて完成させたある価格支配の方程式が隠されている――モエ、クリュッグ、ヴーヴ・クリコ。彼らがなぜ原価のはるか上で値段を設定し続けられるのか。その構造を知っているかどうかが、ラグジュアリーの「真の目利き」と「なんとなく買う人」を静かに分けている。