「年収103万円の壁」はどこから来たのか
今年は実りのシーズンを畑で体験できました。先月はじゃがいもの収穫作業をしながら、ふと「103万円の壁」をめぐる国民民主党・玉木雄一郎氏の言葉がよみがえりました。
それは「カロリーベース」という単語です。テレビ番組でご一緒した際、政策について非常に重要な示唆をいただいたのですが、どうやら「103万円」という数値は、これが定められた当時の最低限生きていくために必要なカロリーと、それに基づく金額が影響しているようです。
さらに国民民主党の榛葉幹事長は、103万円の上限撤廃を行うべき理由として「財源論の前に国民の生存権だ」と強調しています。なぜならこの金額がカロリーベースと切っても切れない関係であるからです。ようするに食べて生きていくためのエネルギーの視点から、「103万円の壁を見直す必要があるのだ」ということです。
いわゆる「年収103万円の壁」とは、「働き控え」の現象を指します。パートやアルバイトなどの収入が年間103万円を超えると税負担が発生するため、意図的に労働時間を制限し、収入を抑える選択が生じるのです。もっと働いて稼ぎたいのに、働けない。そのような人々の不満をすくい上げ、2024年の衆議院議員総選挙でこの壁を大幅に引き上げることを公約に掲げて躍進したのが、国民民主党でした。
では、そもそもこの103万円という数字の根拠は何だったのでしょうか。
この金額は、所得税の基礎控除(48万円)と給与所得控除(最低保障額55万円)を足した額に由来します。つまり、最低限の生活費とされる103万円までは課税しない、というわけです。
消費者物価指数は3カ月ぶりの伸び率拡大
ただし、この基準が制定されたのは1995年。今からおよそ30年前のことです。
当時、基礎控除は38万円、給与所得控除の最低保障額は65万円でした。この基準についてある元大蔵省官僚に尋ねたところ、先述の通り、カロリーベースで最低限生活できる金額が103万円と試算された影響が大きいとの回答でした。つまり、一年間に必要なカロリーをまかなうための基準であるといえるのです。
くしくも1995年は食糧法の施行で米の販売が自由化された年。しかし現実には、円安や原材料費の高騰が影響し、食料価格は高止まりしたままどころか、物価は年々上昇しています。
たとえば、1995年の消費者物価指数(CPI)は95.9でしたが、2023年には105.9となり、実に10.4%の上昇率を記録しています(2020年=100)。特に食料価格は、エネルギー価格や円安の影響で大幅に高騰しました。
しかも総務省が発表した今年11月の東京都区部の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合が108.3と、前年同月比で2.2%の上昇となりました。じつに3カ月ぶりの伸び率拡大になったにもかかわらず、103万円の基準は数十年来据え置かれたままだというのが現状です。