トランプ政権の影響による日米の景気減速が懸念されている。エコノミストの崔真淑さんは「日米経済はそれほど単純に悪化の一途をたどるものではない。関税よりも見えにくいかたちで私たちの家計に直接影響を及ぼすトランプの政策がある」という――。

日替わり定食レベルで変わるトランプ外交

トランプ第2期政権も早2カ月以上が経ち、先日、日本経済新聞で興味深い記事が示されました。「エコノミクスパネル」の第4回調査で、経済学者47人に「トランプの関税政策が日米のGDP(国内総生産)にどう影響するか」を訊ねたのです(*1)

結果は、8割の学者が「日米どちらのGDPも下がる」。つまり、トランプ関税政策が日本のGDPのみならず、米国のGDPも押し下げるだろうと予測。要するに、関税政策の影響で米国内の消費や生産性が低下し、「米国の人々が失業率の悪化を見込んで消費を控える傾向が強まれば、景気は一段と悪化する」(笠原博幸氏)と推測したのです。

「トランプ政権の外交政策なんて、方針が“日替わり定食レベル”で変わる」

「トランプがやりたいのは、米中のデカップリング(=経済的絶縁)。それもドライに関税で断ち切るスタイル。輸入品には関税バンバン、PNTR(中国との恒常的な貿易関係)の剥奪はくだつさえも彼ならやりかねない」

「トランプにとっての最重要目標は『貿易赤字の削減』。同盟国はいわば“財布”みたいなもの」

2025年1月の政権発足以来、アンチ・トランプ評をざっくりまとめればこのような感じでしょうか。“「俺様ルール」で二国間交渉しか信じない人”という人物像が内外にあらためて印象づけられたこの2カ月と言ってもいいでしょう。

2025年3月17日、ワシントンD.C.で開催されたジョン・F・ケネディ舞台芸術センターの理事会を前に、ガイドツアー中のドナルド・トランプ米大統領がメディアに語った。
写真=AFP/時事通信フォト
2025年3月17日、ワシントンD.C.で開催されたジョン・F・ケネディ舞台芸術センターの理事会を前に、ガイドツアー中のドナルド・トランプ米大統領がメディアに語った。

「3つのT」で表現されるアジア政策

アジア対策についても同様です。トランプ大統領のアジア政策は、関税、技術、取引主義という「3つのT」で表現されることが多いと言われます。「Tariff(関税)」「Technology(技術)」「Transaction(取引主義)」の3つです。

まずは「関税」。関税が上がったことによって中国から米国への輸入が激減し、当然日本企業のサプライチェーンにもそれが波及します。「Made in China」がサプライチェーンに紛れ込んでいたら、それだけでアウトにもなりかねません。つまり、日本企業が中国で製造された製品を米国に輸出すると、関税の対象となるだけでなく、そのサプライチェーン全体が疑問視される可能性があるということです。

次に技術。AIや半導体はもちろん、ライフサイエンスにまで規制が及ぶ可能性がありそうです。

そして3つめの取引主義。これはもう「外交=ビジネス=ディール(取引)」という、ある種の“トランプ教”と言えるものです。外交問題がいわば、取引の「成立」か「不成立」かの2択主義になるため、世界は“トランプ流安全保障”のサプライチェーン時代に突入するとも言えそうです。つまり、長くて太いサプライチェーンは「悪」、短くて安全が「善」。その流れに乗り遅れたら、内外そして大小問わず企業の命運はそこでジ・エンドという潮流です。

少々極端に言い過ぎましたが、はたして日米経済はそれほど単純に悪化の一途をたどるものでしょうか。私はそうは思いません。

*1 「トランプ関税、日米のGDP『下げる』8割 経済学者調査」2025年3月21日付、日経電子版